20.5

アリババ視点

忘れもしない
いや…忘れられないと言った方が正しいか

俺には腹違いの兄が二人、そして義理の姉が一人いる
義姉は先代バルバット王…父がどこからか拾ってきた子供らしい

義姉は優秀だった
知識をあっという間に吸収し、武芸を瞬く間に身に付け…幾年もしない内に、大人達も尊敬の眼差しで見る様な人物へと変貌を遂げたと聞く

本人は対してそんなつもりはなかったらしく。政務に関する自身の権限を全て放棄、己から王政に関わる事を拒んだ
これには父も大層驚いたそうだが、義姉は自身が王族の血縁でない事と父の周囲を見極めた上で判断したらしい

年齢にそぐわぬその判断力と知識故に、義姉はバルバットの麒麟児と同時から隠れ称されていた

そんな義姉が世界へ旅へ出ると宣言したのは、俺がまだ王宮に来て間もない頃
右も左も分からない俺に、根気よく相手をしてくれた義姉がいなくなると聞いて、泣きじゃくったのを覚えている

後から聞いた話だと、義姉は見聞を広げる為に世界へ旅立ったらしい
彼女の飽くなき知識欲に舌を巻き、同時に寂しさが募る。俺はまだ、義姉の側に居たかったんだと

そんな義姉が幼い俺に、歌ってくれた歌があった。バルバットでは普通に歌われる、船乗りの歌
義姉がアレンジしたものらしく、俺が以前聞いたのとは少し違っていた
けれど優しくて温かい歌で、良く歌を懇願したのも今では懐かしい


そんな歌が、シンドリアで流れた
歌った人物は、義姉と同じ名前の女性(ひと)。以前からまさかとは思っていた…どこか面影があったし、懐かしい感じがしたから

歌声は記憶にある歌声そのもの
そして決定的なのが、俺と同じ…いや似て非なるバルバットの宝剣を所持している事だ



「…アスラード、姉上?」



声が震える
何年会ってなかっただろう?

俺の声に振り向いたその顔は、満面の笑顔で
それは記憶にある義姉の笑顔そのままだった



『久しぶりだな、弟よ』



20.5夜 弟の追憶



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