20

厄介な事になった
謝肉宴の真っ最中だってぇのに、悪魔の気配がしやがる。遠くの空で僅かに立ち込める暗雲が、何よりの証拠だ



「アスラ」

『……………』



シンドリア国内でアレを視界に捉えられるのは、俺とマスルールのみ
本来マスルールは見えなかったんだが、俺が悪魔達と戦っている最中。何をトチ狂ったか、突っ込んできやがった

当然悪魔の攻撃を受けた訳で…魔障者となり、悪魔が見える様になっちまったという、何という情けない経緯である

そんな事よか、この場だ
悪魔達の障気が高濃度で広がっていってる。アイツラ…手出し出来ないからって、障気をワザと飛ばしやがったな!



「あれ?なんか広場が騒がしいね」

「…ホントだ」



しまった!
障気に当たって一部の民が正気を失う事態にまで…くそっ、失態にも程があるぜ…

どうするどうするどうする!?
この現状を打破し、尚且つ王に伏せておける様な手立てなど…



「な、なんか様子がおかしくないかい?」

「アラジンさんもそう思いましたか…アリババさんもでは?」

「あぁ…これは、異常過ぎる…」



障気に当てられた以上、彼等の意識を別の方向へ持っていった方が得策だ。だがそれをどうやって…不意に俺の視界に、アリババの腰元に差されている宝剣が映る

シンドバッド王はやはり、彼に渡していたか。抜かりない方だ………宝剣?



『その手があった、か』



目立つ行動は余りしたくはないが、この際だ仕方あるまい。後に追及されるのを覚悟し、微かに息を吐く

さぁショータイムの始まりだ



「お姉さん!?」

「お、おい!アスラ!」



手摺りに音もなく飛び乗った為、周囲がざわめく。だが俺にそんな音など気にする余裕などない

深く息を吸い込み、言葉を紡ぐ



『―― ――――――』



海風に乗り、言葉は歌となりて響き渡る
この歌はかつて"故郷"と呼ぶ場所で教わったもの。それに俺がアレンジを加えた…悪魔に対抗する術の一つとして



「…キレイな歌だねぇ」

「アリババさん!どうしたんですか!?」



モルジアナの悲鳴地味た声音に背後を横目で見やると、アリババが無言で涙を流していた

泣き虫は未だ現在か



「この、歌は…」

「この歌を、知ってるのか?」

「……バルバットの、歌です」



息を飲む音が響く
だがそんな事関係無く、俺は続けた



『――― ―――― ――

――― ―――― ――』



歌も終盤に差し掛かる
市街を見やると、あれだけ騒いでいた民衆は嘘の様に静まり返り、歌に聞き入っていた

それを確認し、腰に装備していた短剣を取り出す



『――― ――― ――――

―――― ―――― ―――』



歌と共に、剣と舞う
僅かな手摺りの幅を縫う様に。跳び跳ね、流し、時にはその激しい動きを止め

月明かりに照らされ、剣が輝く



「あの短剣は…」

「アリババ君のと同じ…」



次第に動きは緩やかになり、迎えるフィナーレ



『――― ―――――』



華やかに跳ね、空へと舞い上がる。同時に障気を中和する為、聖水を霧状に撒布
勿論極微量にした霧状だ、気付くならファナリス位だ

歌と舞が終わり、辺りは静まり返る



「君は…」



唯一口を開いたのは、我らが王・シンドバッド



「君は、何者だ?」



戸惑う瞳が俺を見つめる中、一人だけ歓喜に満ちた瞳を向けている者がいた



「…アスラード、姉上?」

『久しぶりだな…弟よ』



20夜 きょうだい


[ back ]





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -