18
シンドバッド視点「ん?マスルールはどこ行った?」
謝肉宴の真っ最中
ふとあの赤毛が見当たらない事に気付き、辺りを見回す。だがそれらしい姿はない
「あれ?ホントだ…」
「全く…どこへ行ったんだか…」
首を傾げる者、呆れる者、憤慨する者など多様な反応を見せた八人将だが、唯一笑みを浮かべたヤツがいた
ヒナホホだ
「……へぇ」
「どうした、ヒナホホ」
「シン。あれ、見てみな」
「ん?」
ヒナホホの言われるがまま、指差された先を覗き混む。すると目を疑う光景があった
あの、マスルールが
絶世の美女と並んで歩いてるじゃないか!
「…………」
「やるなぁ」
しかし、ふと疑問が浮かぶ
確かアイツの好みのタイプは胸のデカイ女性だった筈…遠目から見る限りでは、彼の女性の胸はんなデカい方じゃない。寧ろ標準か、それより少し上位ってところだ
好みが変わったのか?
「きれーな人だねぇ……あれ?」
「どうしたアラジン」
「…あのヒトのルフ…」
アラジンはルフが見える、もしかしたら彼女が誰だか分かったのか?
そうこうしてる内に、彼女を連れてマスルールが俺達の眼前にやってきた。改めて見ると、やっぱり綺麗な女性だな
「シンさん、抜け出してすみませんでした」
「いや何、気にするな。その女性を誘っていたのだろう?」
「ッス。宴に居なかったから連れてきました」
冗談で言ったんだが、まさか本当だったとは…いやいや。あのマスルールだぞ?大いな成長だ
「ガハハハッ!まぁどうせ王宮で仕事していたクチだろう?」
「ッス」
「お主な、折角の宴なのだ。出席しないでどうする…」
ん?
ヒナホホとドラコーンが何やら顔見知りな口振りだな…王宮にあんな女性いただろうか?
「しかし似合うではないか。妻の言うてた通り、矢張これからも女性らしい服装をすれば良いものを」
「そうだぞ?お前さんは元が良いんだ、勿体無い」
『………………』
「二人共、そこら辺に。コイツ困ってるッス」
この三人と懇意で、尚且つ王宮で働いている。会話を聞く限りだと、普段は女性らしい振る舞いをしていない…駄目だ、サッパリ分からん
「三人共、良い加減にその女性を紹介してくれないか?」
「そうだよ〜!」
するとどうだ
三人は目を瞬かせ、お互い顔を見合せたじゃないか。なんだなんだ、その反応は
「皆、分かってない?」
「この格好なのだ、致し方あるまい」
「いやいや。流石にジャーファルが分からんというのはなぁ…」
ジャーファル?という事は文官か?
以前首を傾げていた俺達だったが、突然モルジアナがその女性に抱き付いた。あぁ!何て羨ま…じゃなかった、何て事を!
「モルジアナッ!?」
「……お姉ちゃん?」
は?お姉ちゃん?
モルジアナに兄姉はいなかった筈だが…
『やっぱり…モルジアナには隠し事出来ないね』
おや?今の声は聞き覚えがある
恐る恐る隣へ視線を向けると、ジャーファルの表情が驚きに満ちていた
…この反応だと、やっぱり"あの子"なんだな
「アスラ…なんです、か?」
『そうですが』
(その場に驚愕の声が上がったのは言うまでもない。かくいう俺もその一人だ)
(しかし…マスルールと並ぶと美女と野獣、にしか見えないな)
18夜 着飾る花