17

『謝肉宴?』

「そ。東の果樹園地帯に南海生物が出たらしくてな」

『久々だな…』



謝肉宴は王がパフォーマンス化させた南海生物撃退である。本来ならば驚異でしかない襲来を、発想の転換によりプラスの方向へと持っていったのだ

更にこの南海生物、良質なタンパク源。見かけはアレだが美味い

まあそんな訳で
この収穫祭を我々は謝肉宴と呼び、国中を上げての宴となる



『……賑やかだな』



王宮から眺める市中は絶景
皆、飲んで騒いでお祭り騒ぎ。かくいう俺はというと…



『さて、仕事仕事』



王宮に対悪魔用の新たな結界を張る為に、宴には不参加だ。まぁ人混みが多少苦手って理由もあるが…

宴の賑やかさがあれば、悪魔達も鳴りを潜めるだろう。その間に結界を張っておけば、後々が楽になる

疑念を持たれているのは、重々承知している。だからこそ、手は打っておきたいのだ。国民や王、王宮に働く人達だけではない



『…"あの子"も、いるからな』



俺には"ルフ"を見る事も、使える事も出来ない。だが僅かに感じ取る事は出来る、"あの子"のルフは周囲を穏やかにしてくれる…だからこそ、王宮にいられる今、打てる手は打っておきたい

これからの未来は、若き世代が担っていくのだから



『あの子には何かを変える"力"がある…だからこそ"貴方"は託したのでしょう?』



風に揺られ、紫水晶が首元で輝く
まるで返事を返したかの様に…

そういえば女官達が感肉宴用の衣装を、俺に着させたがっていたな…まぁ逃げてきたが



『あんなヒラヒラしたの、着られるか…』

「着ないのか?」

『……………………』



驚きませんよ、もう



『宴はどうした?』

「アスラがいないから、抜け出してきた」

『オイコラ』



それでもお前、八人将か?
王の側を離れちゃいかんだろうが!



「アスラ宴は?」

『いや俺は…』

「宴」



だぁ!お前は餓鬼か!
ヒナホホ家のチビ達とそう変わらんぞ!

んな小動物みてぇな目で見るなぁ!



『戻れ』

「やだ」

『即答かよ!?』

「アスラが宴に出てくれるなら、戻る」



な、なんだそれは?
俺にとって究極の2択じゃねぇか…



「アスラ」

『ッ…』



ダメだこりゃ
俺が折れるしかなさそうだ…しかしマスルールのこの目にゃ、てんで弱いな…何でだろう?



『分かった分かった、宴に出る』

「本当にか?」

『ああ、だから少し待て』



あぁ、あのヒラヒラした服を着る羽目になるとは…恥だ恥

一旦更衣室へ向かい、女官から押し付けられた衣装へ手を付ける。つか生地が滅茶苦茶薄くねぇか、コレ?俺の身体は傷だらけなんだが…



『悪い、待たせた』



更衣室の前で待たせてたマスルールに声を掛けると、見る間に目を見開く。なんだ一体?



「……………」

『おい、マスルール?』

「アスラ」

『あ?』

「すごく、似合う。綺麗だ」



ゆるりと、マスルールが笑む
その表情は何時もと違い、凛々しく雄々しく、だが優しい笑顔で

感情を殆ど出さないマスルールのそんな笑みに、つい見惚れてしまった



『……ん、アリガト』


(女神、みたいだ…)

(し、心臓に悪い!)
(何っー表情するんだ、コイツ!?)
(あぁ…頬が熱い…)



17夜 其れの名前は


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