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『あれも買った、これも買った…』
珍しく早く仕事が上がれた今日、久々の市場に出向いていた
「ねーちゃん、お菓子」
『だーめ』
子連れで
と言っても、実際俺の子ではない
「けちぃー!」
『お父さんに言い付けちゃうぞ?』
「……ゴメンナサイ」
『ン。いいこ』
この子達は八人将の一人、ヒナホホ様のご子息達だ
「アスラ姉さん、これで買い出し終わり?」
『そうだね。買い忘れはなさそうだし…』
「じゃ帰ろー!」
俺の住まいとヒナホホ様の住まいがお向かいだと知ったのが、数ヶ月前
それ以前から交友はあったものの、まさかこんな関係になるとは当時の俺は知る由もしないだろう
「今日、お父さん帰ってこれないの?」
『帰りが遅いだけだよ』
大家族なヒナホホ家に、母親はいない。何でも数年前に他界されてしまったとか…だからだろうか、幼少組は俺を母親当然に慕ってくれる
まぁそれもあるから、ヒナホホ家の子供達の子守りを見ているのだが
『只今ー』
「お帰りー!」
荷物片手に駆けてきた留守番組を抱き止め、頭を撫でる
『イイコにしてたか?』
「うん!マスルール兄ちゃんが遊んでくれた!」
は?マスルール?
視線だけ居間に向けると、残した幼少組と戯れるマスルールの姿が
「邪魔してる」
『…いつの間に…』
「姉ちゃん達が行ってからすぐ」
『…サヨデ…』
俺とマスルールが懇意にしている事は、ヒナホホ様もご存知で。何度か二人で夕飯をご馳走になった時もある位
だがまさか八人将の、あのマスルールが自ら率先して子守りをする様になるとは…世の中分からん
『悪いな』
「…いや…」
ヒナホホ家子守り担当…と言っても過言でない俺とマスルールには、其々分担が決まってたりする
俺は基本家事全般、子供達の躾や勉強の師事を。マスルールは子供達との遊び相手と、武術訓練の師事を
まぁ武術師事と言っても基本を教える程度だし、望んだ子だけにだが
『さて。夕飯作るか』
「手伝うよ、アスラ姉」
『大丈夫。その前に幼少組達を風呂に入れてやんな、マスルール!手伝ってやんなよ』
「あぁ」
と、まぁこんな感じで…ヒナホホ様の帰宅が遅い時など、子供達の面倒を見ている訳だが。未だにマスルールが手伝ってくれるのが分からん、どんな心境の変化があったんだ?
『うし、出来たっと』
「お風呂あがったよー!」
「アスラ!捕まえてくれ!何も着てない!」
『はぁ!?』
そんなこんなで子守りは続き
俺とマスルールがヒナホホ家の若夫婦、と呼ばれるのは…後日の事
(あら、ヒナホホ様。お元気そうで何より。そういえば若夫婦さん達はお元気?)
(若、夫婦?)
(父ちゃん。アスラ姉とマスルール兄の事じゃない?)
(…アイツら、いつの間にそんな噂になってたんだ?いや確かに似合いだけどよ)
(…父ちゃん、突っ込み所違うよ…)
12夜 噂の鴛鴦夫婦