5.5
ジャーファル視点「アスラ。少々宜しいですか?」
探し人が見付かり、声を掛ける
私の部下の一人である、アスラという女性だ。位置的にはまだ文官見習いだが、その才には目を見張るものがある
私に声を掛けられ、彼女は首を傾げるだけ。どちらかというと、アスラは無口な部類ですから
「貴女に話しておかなければならないことがあります」
何時もと違う私の雰囲気を察したのか、アスラの瞳が細まる
才能云々もだが、この洞察力も中々侮れない
『場所を、変えましょう』
所変わって王宮裏手
アスラに案内されてやってきた場所は、人気が全くない。良くこんな場所を知っていましたね
『…お話、を』
「そうですね。近く、私とマスルールが暫く不在となります。シンの護衛として」
『国外、へ?』
「流石アスラ、ご明察です。貴女はバルバットをご存知ですか?」
『はい』
形は見習いだが、彼女の知識は最早見習いの枠を越えている。恐らくバルバットの情勢も既に把握しているだろう
「暫くそのバルバットに赴く事になりました。つきましては暫定的ですがアスラ、貴女に私の補佐官に任命…不在中の留守をお願いしたく」
『………………は?』
流石に驚きますね
常に無表情なアスラの表情が崩れたのを、私は初めて見ましたよ
それも仕方ない事でしょう
見習いから補佐官へなど前代未聞…いえ、この国始まって以来の快挙ですから
「驚くのも無理はありませんね。ですが貴女の能力なら問題なし、と私とシンが独断で決めさせて頂きました」
本来なら私の補佐官に任せる筈だったんですが、どうやら現補佐官が間者の疑いが出てきました
私達が不在中、彼が何を仕出かすか分からない状況で、放置する訳もなく。ならばいっそ新たに補佐官を任命する事になった訳なのです
アスラに任命したのは、その未知数の才能もありますが…まだ彼女は私達に"何か"を隠している節が見受けられる。今回の任命でソレが出てくれれば、御の字ですが…
『………因みに、拒否権は?』
「あると思いますか?」
にこやかに笑んで見せれば、アスラは肩をすくめる。どうやら私の答えは分かっていた様だ
彼女を囮に使おうと進言したのは私だ、この国の為に…シンの為に私は泥水を被る覚悟は幾らでもある
だがアスラはマスルールと懇意にしている節があり、一部では男女関係なのではないか、という噂まである程。個人的にはあのマスルールが女性に興味を持った事を喜ばしく思っています
そんな事はさておき
マスルールもそうだが、恐らく彼女なりの王宮での人脈がある筈
この女性は侮れない
『承知、致しました』
5.5夜 政務官の思惑