#33

突然犯人の周囲に現れた多くの人達。その瞳は虚ろで、廃ビルで対峙した少年と酷似していた…まさか…


『良くここまで人数を揃えられたモンだ』
「…ワンアイズ、まさか…」
『そのまさか、だ。こいつら全員、生人(いきびと)では在るまい』


それはつまり。全員犯人のネクストで操られている死人って事、ですよね…こんな非情な事をやってのけてしまうなんて


「さぁ!あの女を殺してしまいなさいっ!!」
『…狂ってやがる』


吐き捨てる様に彼女は呟く
この会場には民間人が多くいるのにも関わらず…あれ?記者の数が減ってるよう、な?


『アニエスッ!』
[会場にいる非戦闘員は今すぐ退避っ!]


設置してあったスピーカーから、アニエスさんの声が響き渡る。と同時に、会場にいた人達は蜘蛛の子を散らすかの如く、颯爽と立ち去っていく…混乱もなくだ


「なっ!?」
『まさか民間人を巻き込む訳にゃ、いかんからな。アニエス、ナイスサポート』
[うふふ、これ位どうって事ないわ]


この二人、いつの間に連携が取れる様になったんだろう?いやそもそも、ワンアイズはこの事態を予測していた?


『全ヒーローに告げる、これよりコイツらの殲滅に入る。戦闘準備』
「せ、戦闘準備って…」
『当然お前も参加だ、ルナ』


彼女の言葉に、僕達は頭上を見上げる。そこにはいつの間にか、ルナティックの姿が

…ただ、些か不満げな雰囲気なんですけど…


「私も、か?」
『強制参加』
「………………」
『文句あんのか?』


鋭く睨む彼女に、どうやら折れた様だ。溜め息を漏らすとルナティックは、静かに僕達の元へ降り立つ


「貴女の説教だけは勘弁被ります。それに…負け戦と分かってて、勝負を吹っ掛ける人でもない」
『分かってんじゃん。つか勝って当然だろ』


不敵な笑みを浮かべ、彼女は耳元に付けてるイヤホンへ視線を向ける


『アニエス。映像流すんじゃねぇぞ』
[何ですってぇ!?この大スクープを見逃せって言うの!?]


…ア、アニエスさん…


『阿呆。この戦闘の情報を流してみろ、どっかの馬鹿が同じ事仕出かす可能性がある。それが起きたらお前、責任取れんのか?』
[そ、それは…]


彼女の言葉も最もだ
唯でさえ前例がない事件だ、二番煎じが起きないと断言出来ない


[もったいないわっ!貴重な映像をっ!]
『…オイコラ、人の話聞け。俺は放映するなと言っただけだろ』
[………は?]
『映像は撮って構わん。ただし流すな』


彼女の考えが読めない…一体どういう事だろう?


「お嬢さん、その心は?」
『戦闘映像を見返す事で、お前達は更に強くなれる』
「…なーるほど」


彼女の言い分はこうだ
映像を撮っておけば、今後僕達の役に立つであろうと

この一件、内容が内容だ。一般市民へ説明しようにも出来ない、ならば伏せた方が混乱は起きない筈

彼女の意図は恐らくこの2つ


『Ah-.銀河と楓は…』
「「いるっ!!」」
『………さよで。マリオったな?実況ついでに子守りも宜しく』
「…は?」


一見、非常識とも取れる彼女の判断。だが楓ちゃんや銀河君は恐らく、どんな事があろうとも"この二人"から離れないだろう。特に銀河君は狙われているから尚更だ


『さぁて…準備はいいか?』


そう言いながら彼女は、腰に装備していた日本刀を静かに抜く。光に反射する刃はとても鋭利で、とても冷たく、けれども美しい

切っ先を犯人へ向け、椿さんは不敵な笑みを浮かべる


『史上初、ヒーロー連合による戦の始まりだ』


その姿は、まさしくヒーロー



(さぁて宴の開始だ)

兎視点
そろそろ完結近いです


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