#11

虎徹さんが帰ってきた
けれど様子がおかしい。どこか上の空で溜め息も多く、休暇前より暗い雰囲気を醸し出している

一体何があったのだろう?


「ハンサム君。彼、一体どうしちゃったの?」
「それは僕も知りたいですよ…休暇から帰ってきてから、ずっとなんです」


唯一事情を知ってる二人が小声で僕へ問い掛けてくるが、それは僕だって知りたい事柄です


「虎徹さんに聞いても、何でもないの一点張りで…」
「椿って女と、何かあったか」
「虎徹さんが?」
「ハンサム君、お忘れ?タイガーだって男よ?」


本当にそうだろうか?
楓ちゃんや銀河君が一緒なのに?


「埒があかねぇな…いっそのこと問い質すか?」
「そうねぇ…酒が入ってれば口を割るかもしれないわね」
「……」
「とにかく今の現状を打破しないと。彼が塞がってたら、トレーニングルームの空気が悪いったらありゃしない」

***

そんな訳で虎徹さんを問い質す為に、表向き酒盛りをする事に。というか僕の部屋なんですか


「久々だな、こうして酒を酌み交わすのも」
「そうねぇ…ほら、二人も呑みなさい」
「お、おう…」
「はい」


アントニオさんに強制的に連れてこられた虎徹さんは、未だに状況が良く飲み込めてない様子


「お前達って、こんなに仲良かったっけ?」
「たまにですが、お二方に相談に乗って貰ってるんです」
「え、そーなの?オジサン初耳」


初耳なのは当然
これは虎徹さんを留めておく為の嘘であり、実際は何もない

適度にアルコールが入った所で、アントニオさんが本題を切り出した


「虎徹、お前何かあっただろう?」
「あん?」
「いや、最近やけに塞がってるからよ」


流石元同級生
僕達にはそんなストレートな問い掛けは出来ない


「……何も、ねぇよ」
「嘘だな」
「嘘ね」
「嘘ですね」
「………」


虎徹さん、嘘バレバレです


「………アントニオ、お前覚えてるか?友恵の葬式ん時の事」


彼の口から漏れた女性の名前に、僕は僅かに表情を強張らせる。それは虎徹さんの奥さんの名前だから


「………あぁ、勿論。正直当時のお前は、見るに絶えなかったよ」
「俺な、あん時に誓ったんだよ。友恵以外誰も愛さないってな」


コップの中のお酒を煽りながら、虎徹さんは更に続けた

アルコールの進み具合が異様に早いと思うのは、気のせいだろうか?


「だけどな…椿に会って、その誓いが揺れた。楓も椿に懐いてて、母親みてぇに慕ってるし」


やはり虎徹さんは酔ってる
僕はともかく、虎徹さんは二人へ椿さんの事を話してない筈。それに…目が据わってる


「椿の息子の銀河君もな、楓みてぇに凄ぇ良い子でな。こんな俺を父親と慕ってくれてて、しかもワイルドタイガーの大ファンときた」


ど、どうすれば良いのだろうか?二人へ視線をやれば、静かに首を横に降るだけ。このまま?


「分かっちゃいるんだ、楓に母親が必要だって。けどな…友恵の事を考えると、踏み出せねぇんだ」
「虎徹さん…」


苦虫を噛み砕いたかの様な表情を浮かべる虎徹さんは、今まで見た事がない。まるで別人のよう


「椿は嫌いじゃねぇ…寧ろ凄ぇ気ぃ合うんだ、側にいると楽なんだ」
「だったら虎徹…」
「…怖いんだよ…」


アントニオさんの言葉を、虎徹さんの台詞が遮る。その声音は…とても悲しいもの


「…あんた…」
「俺は、結局…臆病者、なのさ…」


そう呟いた後、虎徹さんは酔い潰れて寝てしまった


「…虎徹さん」
「ったくこの強情っぱりが」
「ホント、不器用な男ね…」


虎徹さんが恐れているのは多分、自身を拒絶される事…そして友恵さんを忘却してしまう事

だからこそ惹かれ始めていた想いを封じたんだろう…何て馬鹿な人だ


「私、この馬鹿と椿ちゃんを全力で応援しちゃうわ!」
「俺もだ」
「僕もです」


そんな、奇妙な協力心が芽生えた頃

まさか椿さんの身に、大変な事が起きているとは…その時の僕は知るよしもなかった


後悔先に立たず

(………まいった、な)


***
兎視点
この四人組が好きです
虎がトレーニングルームを使えるのは、前回兎が細工したから←え


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