#10

『出掛けるぞ』


突然椿から出た言葉に、俺達は目を瞬かせる

だがそれも理由が分かれば、納得がいく。明日になれば休暇が終わり、俺はシュテルンビルトに戻らなければならないからだ


「行くってどこだ?」
『行ってみれば分かる』


ニヤリと効果音が付きそうな笑みを浮かべながら、椿は手慣れた手付きで弁当を作ってく
振り返ってみれば、はしゃぐ子供達の姿が


「……まぁいいか」

***

椿の案内で向かった先は、穏やかな高台。そこは故郷を一望出来る所であり、俺が学生時代によくサボる為に足を運んだ懐かしい場所だった

まさか再び、ここに来るとは思わなかったな


『虎徹?』
「いや、懐かしいなと思ってな」


珍しく感傷に浸っていたからか、言葉少なくなった俺に椿が問い掛けてきた。気、使わせちまったか


『なんだ、知ってたのか。この場所』
「学生ん時のサボり場所」
『オイコラ』


おぉ、こわっ!
んな目くじら立てんな

この場所は地元の人間でも余り知ってねぇ、言わば隠れスポットってヤツだ。行き来が楽な上に、景色を一望出来るっう特典付き。珍しいよな


「んな怒んなよ。折角美人教諭で通ってんのに、勿体ねぇぜ?」
『…ちょい待て。虎徹が何で知ってんだ?』


訝しげに眉を潜める椿に、俺はつい得意げに笑みを深める


「ニュースソースは母ちゃんと兄貴」
『…………安寿さん、村正さん…』


母ちゃんが自慢気に話してたのは…伏せとくか。娘が欲しがった母ちゃんは椿を本当に可愛がってて、兄貴も兄貴で妹が出来たみてぇに椿へ接してやがる。ここまでくると重症だな

太陽が真上に近付いた頃を見計らい、昼にする事に


「おーい!昼にするぞー!」
「「はぁーい!」」


近場で遊んでいた楓と銀河君へ声を掛けると、見事にハモった声が返ってきた


「お母さんや」
『…何だ、お父さんや』


昼の支度をしている椿を横目に、こちらへと向かうチビ達を眺める。戯れる兄妹猫を彷彿とさせる、何故か


「あの二人よ。輪をかけて、きょうだいみてぇだな」
『何を今更』


呆れた様に溜め息を漏らす椿に、俺は複雑な心境だ


「わー!おいしそー!」

弁当には色彩りのおかずがぎっしりと詰められ、全て俺達の好物ばかり。椿、済まん…これだけの量は疲れただろ

当然俺達は、椿の料理に舌鼓を打った


「あーあー…寝ちまったぜ」
『はしゃいでたからな、仕方ないだろ』


昼飯を終えたチビ達は満腹感と陽気に負けたのか、はしゃぎ疲れたのか。今や夢の中

久々に俺も昼寝でもするか…チビ達の隣に寝転び、椿を見上げる


「椿も来いよ」
『え?おい、こら!?』


彼女の腕を引っ張り、隣へと寝転ばせる。ちょいと強引だったが、たまには良いじゃねぇか


「良いじゃねぇか、なぁお母さん?」
『まだそのネタ引っ張るのかよ…』


そう呟く椿だが、案外ノリ良いじゃねぇか


「クククッ…実際母親なんだから問題ねぇだろ」
『そりゃ、そうだが…』
「たまにゃお前も、羽根伸ばせよ」


俺は知ってるぜ?
銀河君の為に教諭職の他に仕事をしてる事も、実は甘え下手な事も

にしても
椿ってこんなちっさかったんだな、細ぇし…着痩せするタイプか?
こんな良い女、俺だったら放っておかねぇな。口説いてっか、も………


『……虎徹?』
「いや…何でもねぇ」


俺は今、何を考えてた?
椿は楓の恩師、それだけじゃねぇか

それだけなのに…何故か左手が重く感じた


賽は投げられた

(その後。俺は椿の顔をまともに見る事なく)
(シュテルンビルトへと戻った)

***
虎視点
自覚してる様でしてない虎


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モドル

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