#07

鏑木家の夕飯に舌鼓を打った後、穏やかな時間はあっという間に過ぎ

時計の針は1日を終えようとしていた


「さてと。バーナビーは客間使うとしてだ、銀河君と椿先生はどうすんだ?」
「私は先生と一緒に寝る!」
「僕は虎徹おじさんと!」
『おやまぁ』


今日1日ですっかり虎徹さんに懐いた銀河君は、彼から離れようとしない。最早親子と言われても遜色ないだろう

楓ちゃんは楓ちゃんで、椿さんにベッタリ。虎徹さんが落ち込む訳だ


「悪いな、バーナビー」
「いえ。僕も自宅と思ってゆっくりさせて頂きますよ」
「言うようになったじゃねぇか、この色男」


というより。寧ろこの疑似親子関係に、水を差したくないだけなんですけどね


「皆さんお休みなさい」


就寝の挨拶を掛けると、皆さん笑みを浮かべて僕を見やった


「おう。お休み、バーナビー」
「バーナビーお兄ちゃん、おやすみなさい!」
「おやすみなさい、バーナビー」
『お休み、バーナビー。ゆっくり休んでね』


あぁ、本当に暖かいな。虎徹さんに感謝しないといけない

そうだ。虎徹さんの休暇を延長出来ないだろうか?
ヒーロー業も僕が頑張れば良いし、皆に理由を話せばきっと協力してくれる筈だ。夜分遅いとは思うけど、早速連絡してみよう


***


この土地に越してから、鏑木さん達にはお世話になりっぱなしだ

安寿さんには本当に頭が上がらない。銀河の事もだが、私を実の娘当然に優しく接してくれて。何より楓ちゃんが…私を母親の様に慕ってくれている。まるで娘が出来たみたいで擽ったいが、実母である友恵さんには申し訳ない様な…何か複雑な気分だ


『あれ?虎徹さん?』
「椿先生?」


楓ちゃんが寝付いた後、縁側へ風に当たりに出てみると、そこには先客が。月光に照らされ、虎徹さんが縁側で晩酌をしていた


「楓は?」
『寝付きましたよ。銀河はどうです?』
「お休み三秒」
『あらら』


互いの子供達の報告を交わした後、虎徹さんの隣に静かに腰掛ける


「…スンマセン、銀河君から聞いちまいました。その、色々…」
『あぁ、構いませんよ。銀河の事は、安寿さんも楓ちゃんも知ってますから』
「そうなんスか?」


鏑木家は銀河の事を承知済みで、それでも受け入れてくれてる。本当に、感謝してもしきれない


『ええ。でも…銀河の"心"を救ったのは間違いなく、虎徹さん貴方です』
「俺?」
『銀河は父親を知らない。義理でも母親の私では、穴埋めは出来なかった』
「…………」


女である私は、父親になれない。だから銀河の心の奥底にあった"傷"を、癒す事が出来なかった
だが今日、その"傷"を虎徹さんが癒した。それは銀河のあの笑みを見れば、一目瞭然


『だから、虎徹さんには本当に感謝してます。ありがとうございます、銀河に"父親"を教えてくれて』
「礼を言うのはコッチさ。俺が楓の側に居られねぇ時、先生が居てくれたんだろ?電話で散々楓から聞いてるぜ?」
『ちょ、楓ちゃん…』


お礼を言った筈が、言い返されてしまった。というか楓ちゃん、虎徹さんに何を吹き込んだの!?


「お?先生赤くなっちゃってまぁ、可愛いー」
『良い歳した大人に可愛いとか言わないで。虎徹さんと余り大差ない年齢ですからね、一応』
「………え?そなの?」


あ。ここにも一人、外見で年齢を勘違いしてる人がいたよ


『因みに虎徹さんとは一回り離れてません、バーナビー君とは掌程度離れています』
「…………なんか、スンマセン」


申し訳なさそうに頭を垂れる虎徹さんを見て、何故か大型犬を沸騰とさせた。ちょ、子供っぽくて可愛いんだけど…


『よーく間違われるんで、もう慣れた』
「ど、どうっスか?椿先生も一杯?」


浅く溜め息を漏らすと虎徹さんは、話を逸らす様にグラスを向ける。そういや最近ご無沙汰だな


『頂こう、かな』


酒の薫りが鼻腔を擽る
ん、久々の酒は美味い…ってあれ?コレ、間接キスになるんじゃね?グラス一つしかないし


「お、イケるクチ」


…本人気付いてないから、まぁいいか


『虎徹さん。私の事は椿で良いですよ、敬語も無しで』
「あ、そう?んじゃ俺の事も、呼び捨ての敬語無しでな」
『了解』


時は金なり

(所で月見酒は良いけど、適度に頼むよ)
(へ?)
(私ゃ楓ちゃんに明日、泣き付かれるのはゴメンだからね)
(い、意外と毒舌だな、アンタ…)

***
兎→夢主視点
漸く絡んだ…虎徹は無意識だと良い


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モドル

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