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「…………夢?」
何処か懐かしい光景に、私は目覚めた
身体を起こし、つい眉間に皺が寄ってしまう。埒が明かないと考えた私は、周囲に目線を移す
室内がシンプルな家具で纏まっているのは、私の好みでもあるが、移動しやすい様にでもある
「………」
…考えない様にしていた筈が、私の脳裏を過ぎるのは先程の夢
「……あれは、私?」
夢に出ていたのは…10代の頃の私…あの頃は確かまだ、師匠(せんせい)の元に居た頃
そして…当時の私が小さい女の子と話していた…多分年齢的には、5歳か6歳位ではないだろうか…?
……いや、だが……
「……日本人と私、が?」
次第に嫌悪感が、私の表情へ露となる。だがすぐにそれは消えた
今日の予定を思い出したからだ
「…そういえば、今日は葵さんとの約束がありましたね」
つい数カ月前に出会った、日本人の少女
日本人が嫌い、と私が言ったのにも関わらず、1言で済ませてしまった変わり者だ
彼女は【視る】力に長けていた
通常【視る】事の出来ない私の式神すら、【視て】しまったのだから
その彼女に私は、数カ月前から度々教授していた。力が強いとなると、必然的に何かしら被害が出るとも限らない
だがまさか私自身から日本人と接触するなど、予想外過ぎる
「あのさっぱりとした性格と、飲み込みの良さが無かったら…私はどうしていたでしょうね…」
正直、彼女の願いを断るつもりだった……しかし"何か強い思い"に、それを阻害され、受けてしまった…何だったのだろうか?
そんな事もあったが…私が教授を初めてから、彼女は瞬く間に吸収していった。まるで上質のスポンジが、水を一気に吸収するかの如く
ここ数カ月の教授は、互いの予定がある為に数回しかしていない。だがその僅か数回だけでも、手に取る様に分かっている
ただ最近……彼女の性格がようやく飲み込めてきた
「…あの子は…また無理をしてなければ良いですが…」
彼女はバイトと学生と家事を掛け持ちしている、勤労学生である。最初の教授の時に何事もなく言われ、再び驚いたのはまだ印象強く残っていた
下手をすれば谷山さんよりも、勤労学生な彼女は度々無理をする
無理をしては倒れる、これを繰り返されているので、私としては正直堪ったものではない
「…とは言え…葵さんは聞かないから厄介です…」
彼女との約束に遅れない様に、私は行動を開始した
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