(02/02)

首を傾げる葵に、リンは小さく笑みを零す


『あのリンさん…お願いがあるんですが…』
「お願い?私に…ですか?」


彼女の言葉に、ついリンは訝しげな表情を浮かべる
気まずい様な表情を浮かべ、葵は重い口を開いた


『私に…指導をして頂けませんか?』
「…………は?」


これでもか、と言わんばかりに。リンは目を見開いて、彼女を凝視する

対する葵は少し俯き、ポツリポツリと理由を語り始めた


『…最近になって、視る力が急激に強くなっているんです。今までこんな事はなくて…神主さんは既に他界されていまして…』
「………」
『何かあった場合の対処方法を、覚えておきたいんですっ!!』


必死にリンに頼み込む彼女の表情は、何処か切羽詰まる様子で
それに彼は戸惑いを隠せない


「…私が、ですか…しかし…」
『リンさんのご予定が合う日だけで良いんです!万が一の時、妹まで巻き込まれたら……』
「妹さんが、いらっしゃるんですか?」
『………はい』


葵の切羽詰まる様子に、リンは納得がいった
確かに視る力だけだとはいえ、霊現象に巻き込まれたなら話は別

対処方法も分からなければ、最悪命に関わる


『妹は私の力を知りません…あの子には心配をかけたくないんです…』


彼女の想いにリンは眉を潜める。自身が日本人を嫌う傾向だからだ

彼は思い切って、口を開いた


「…私は、日本人じゃありません」
『あ、はい。そうですね』


……………………………

長い沈黙が流れる


「き、気付いていらっしゃったんですかっ!?」
『は、はい…割と最初から…リンさん、中国か香港の方ですよね?』


声高に叫ぶリンに、彼女は目を瞬きながら答える

何時もの彼を知っている者がこの場に居たら、大層驚く事だろう


「…良く、分かりましたね…」
『大学に留学生の方もいらっしゃるので、何となく』
「…何となく、ですか…」


何となく…でリンの国籍を当ててみせた葵に、流石のリンも言葉を無くす


『…あの、リン…さん?』
「………私は、日本人が嫌いです」


まるで絞り出す様に、彼は口を開く。それを聞いた彼女は首を傾げた


『……リンさん、では私は嫌いですか?』
「……え?」


予想外の返答にリンは、葵を凝視する
彼女の瞳は凜とした、強い光を宿していた


『……私が、嫌いですか?』
「…個人的には、嫌いな分類ではないとは思いますが…」


首を傾げながらも、リンは彼女の問いに答える

それもそうだ、この二人はまだ会って間もない


『なら良いや』
「………はい?」


本日リンは、何度驚いた事だろうか。彼女の答えに、彼は目を白黒させている


『リンさんは【日本人】が嫌いで、【私個人】は嫌いじゃないって事だろ?それに個人の価値観なんぞ、直ぐに変えれる訳ねぇし。私を嫌ってないなら良いか、って』


それは彼が今まで、貰った事のなかった答え

それを聞いたリンは、笑いを殺しながら俯く


『…え?ここ、笑うトコ?』
「…すみません…そんな言葉を、返すなんて…ククッ…」
『…どーせ私ゃ変わってますよ…』


ふとリンは彼女の口調が、いつの間にか砕けているのに気付く


「…葵さん、口調…」
『……あ゙、やべっ!』


気まずい様に葵は視線を逸らす
眉間に皺を寄せながら、リンは彼女を見やる


「……猫、被っていたのですか?」
『いや…だって…リンさん年上だし…』


どうやら葵は、年上にちゃんと敬語を使う様だ


「(何故でしょうね…彼女はあんなにも毛嫌いしていた日本人なのに…どうしても邪険に出来ない。寧ろ…)」


彼女の慌てる様子を眺めてながらリンは、自身の気持ちに戸惑いを持つ

断るなら直ぐ様出来た筈なのにも関わらず、彼はそれをしなかった…葵はリンが嫌う日本人なのにだ
然れど彼は同時に、口元を上げて小さく笑う


「(【視る】力のみを持つ能力者ですか…修行したら、一体どんな成長をするのでしょう?)」


彼女の未知なる才能に、リンの好奇心が疼いたのか。はたまた彼の上司の影響かは定かではない


「私には敬語は必要ありませんよ」
『で、でも…』
「これからみっちり、鍛えてあげます。敬語等使える余裕さえ、ない程に」


それはリンが彼女の指導をする、という事

しかし彼の不適な笑みに、葵は冷や汗を浮かべた


『…………リンさん、怖いよ』


リンのその笑みが、些か黒さを醸し出しており

葵はこれから先が、不安になったのは言うまでもない


***
夢主とリンの出会い

時期的には【悪霊がいっぱい!?】後くらい



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