―…その出会いは唐突
『…ったく…』
葵は渋谷を闊歩していた
だが彼女の表情は些か不機嫌
『(ったくアイツは…延々と二時間も話すか?いや愚痴を吐けったのは私だが、途中から惚気になってたぞ)』
眉に皺を寄せながら葵は、颯爽と渋谷の街を歩く
と言うのも、彼女は今まで同期で親友の女性とお茶をしていた
最近彼氏と上手くいってないと、ぼやいた親友を葵は強引にファミレスに連れて行き。溜まってる鬱憤を晴らすべく、全て吐かせたのだ
最初戸惑った親友も長々と愚痴を零していたが、途中から何故か惚気に変わっており…年齢イコール彼氏いない歴の葵にとっては、苦痛の時間でしかなく。そして冒頭に至る
『(ま、アイツの鬱憤は晴れた様だし…良しとするか)』
口調こそ悪い彼女だが、実は大学内外問わず慕われていた
それは葵の面倒見の良さと、さっぱりした性格が起因している
『(…さて…今日は麻衣はバイトだったな。夕飯どうすっかねぇ…)』
彼女の脳内では、学生とは掛け離れた悩みが走る
が不意に葵は目を見開き、背後へ振り向く
先程擦れ違ったある1人の男性を、彼女は視界に捉えていた
『……憑かれてる?』
「……!?」
ポツリと呟いた葵の言葉は、彼の耳に届いたのだろう。男性は身を震わせる
依然彼女は男性を凝視するが、ふと首を傾げた
『(あれ…憑かれてる訳じゃないのか?んじゃあれって…)…式?』
「っ!!!」
葵の言葉はまたも彼に届いた様で、彼女の元へと男性は直ぐ様踵を返す
「……視えて、いらっしゃるのですか?」
問い掛けてきた男性の低い声色が、微かに震えていた。葵は慌てる様子なく、無言で頷く
「……少々、お話を伺っても宜しいでしょうか?」
『あー…じゃあ場所変えましょう。変に目立ってますし』
「……………」
彼女の言う通り、行く人々が何事かと、二人に視線を投げている。男性は渋い表情を浮かべながら、了承の意を示すしかなかった
□□□
渋谷の街並み外れに構える、こじんまりとした公園。そこの一角に葵と男性の姿があった…端から見ると奇妙な光景である
『あ、ども』
男性からお茶を受け取った葵は、ベンチに座る
『…えと…谷山 葵、です』
「リン、と申します」
『リンさん、ですか…』
お茶のプルタブを開け、一口飲むと彼女は再び口を開く
『えーと…リンさんは、【そっち】業界の方で?』
「そう、ですね。貴女は?」
『あ、葵で良いですよ。私はしがない勤労大学生です』
葵の言葉に、リンは訝しげな表情を浮かべた
「大学生?それにしては随分お詳しい様ですが…」
『あぁ…私は【視る】力があるからですよ』
「………は?」
リンは目を見開く、力があるから何故詳しいのか?
彼女は苦笑すると、再び口を開く
『順を追って説明します。
まず私は【視る力】がありますが、それだけです。話せもしないし、触れる事も出来ない、除霊も出来ないし、憑かれない』
「つまり…視覚能力のみ、と」
霊を視る能力はあっても、他の能力は一切無い。更に霊に憑かれもしない、特殊と言える体質
リンは驚きで、目を瞬かせる
『そう、視覚のみ。
でもそれは危険だ、って近所の神社の神主さんが心配してくれて。んで、知識だけでもあった方が良いから…って神主さんに多々知識を叩き込まれて、今に至ります』
「…そうだったんですか…」
彼女の言い分も最もだ
幾ら【視る】力のみとは言え、不用意に霊に近付くのは危険極まりない。葵は余程、神主に叩き込まれたのだろう
『はい。まぁ急に言った私が悪いんですから、気にせんで下さい』
彼女のさっぱりとした性格に、リンは口元に僅かな笑みを浮かべる
「変わった方…ですね、貴女は」
『まぁ良く言われます』
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