――…正直、恋愛感情など不要と思っていた

義理とは言え伊達の姫…何れ何処かの武将に嫁ぐのだから


そう思っていた…今までは
希有な経験と出会いからその考えは霧散し。変わりに突然涌き出た、黒い感情に戸惑う



『…………あぁ』



これが世にいう"嫉妬"、というものなのか…


***


「おい、鈴々音。お前体調でも悪ぃのか?」

『Ha?至って普通だが?』

「ならいい」



この頃、鈴々音の様子が可笑しい。一見変わり無い様に見えるが…何故か俺を避ける

会話も近頃は仕事上の必要最低限な事だけで、まともに話せてねぇ…一体どうなってんだ?



「あー…クソッ!」

「トシ、ちょっといいか?」



部屋へ入ってきた近藤さんの表情は、何処か気まずそうで



「近藤さん?」



……あの話か



「先方に話をしたんだがな」

「通ったのか?」



何故か俺に突然沸いた見合い話。相手は京でも有名な、呉服問屋の一人娘

…俺が見合いたぁ、笑える



「…それがなぁ、先方が粘っててな」

「チッ…しつけぇ…」



呉服問屋の旦那はこの話を快く思っていないらしく、娘に会うだけで良い筈…だった



「大事にならぬ様に、お断りしてみせる。だから、な?」

「……頼んだぜ、近藤さん」



その一人娘が断りの話を聞いた途端、駄々をこねてるらしい…勘弁してくれ



「ったく。我が儘娘に付き合ってる程、俺は暇じゃねぇんだよ」



そういや鈴々音の様子が可笑しくなったのは、見合いしてからじゃなかったか?

この話事態、近藤さん以外誰も知らない筈だ。他の幹部連中にも話してねぇ


……いや、まさかな…



「失礼します、土方君」



悩む俺の所に突然沸いた声音
ひょっこりと山南さんが、俺の部屋に姿を現したからだ



「山南さん?一体どうしたってんだ?」

「お悩みの様ですね。先程近藤さんが心配なされていましたよ」



…近藤さん…気持ちは嬉しいんだがよ…



「そうですねぇ…なら屯所の裏手に行ってみたら如何でしょう?」

「屯所の裏手?」



山南さんの言葉に、俺は訝しげに目を細める。対して山南さんは笑みを深めるだけ



「君の求める答えが、そこにありますよ」



山南さんは全てお見通しってか、この人にゃ勝てねぇな…

俺は彼の言葉通り、屯所の裏手へと足を運ぶ

そこには思いがけない人物の姿があった



「………鈴々音」



屯所の裏手にある巨木
鈴々音はその樹に寄り掛かる様に座り込み、淋しげな表情を浮かべてる

しかも俺の事に気付いてねぇようだ、あの気配に敏感な鈴々音がだ



「鈴々音」

『ト…シ…?』



俺を見た鈴々音は瞳を見開き、何故かそこから逃げ出そうとしやがる

んな事させてたまっか



「いくな」

『っ!』



樹の幹に両手を付き、行く手を阻む。何故か鈴々音は、バツが悪ぃような表情だ



「鈴々音。お前、俺が見合いするって知ってたのか?」

『…偶然、聞いちまってな』



そういやコイツ、これでも姫さんだったな…んで恋愛には疎い

もしかして…嫉妬、してくれた、のか?



「んで。お前が何で落ち込む必要がある?」

『落ち込んで、ない』

「じゃ何で俺を避けてた?」

『っ…』



カマ、を掛けてみた

恋愛に疎いコイツの事だ、もしかしたら無意識だった可能性がある。だったら自覚して貰おうじゃねぇか



『わ、から…ない…』

「分かんねぇ?テメェの事だろ?」

『トシの見合い、聞いた時…黒い感情が涌き出た…そんなの、知られたくなかった…』



俯き、震え縮こまる鈴々音の姿は矢張女のもので。思わず口元が緩む

震える鈴々音の身体を、俺はゆっくりと抱き締める。その温もりを、感じる様に



「元々この見合いは断る気だったんだぞ?」

『へ?』

「なのにお前ときたら…俺を避けるはで」

『ご、ご、ご免…』



まぁ貴重な鈴々音の姿が見れたから、良しとするか



「自覚してねぇようだから言っておく。俺に釣り合う女は鈴々音、お前しかいねぇよ」



追う男、追われる女

(よーやく一段落、だね)
(…主…)
(お二人共ご苦労様です)
(ま、俺様達はいつもの事だからいいよ。山南の旦那、協力感謝)
(あの二人はいつもながら、見ていて歯痒いですからねぇ)
(………同感)


***
シア様リク『土方から逃げる夢主、シリアス→甘な話』でした

土方に舞い込んだ見合いに夢主が嫉妬、そこから土方を避ける…な形に仕上げてみました。自覚がない夢主なので、土方が攻め攻め(笑)
山南に夢主の事を知らせたのは特務隊だったり

大変遅くなりまして、申し訳ありませんでした
企画参加、ありがとうございます!

12.10.15.



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