其の四

「千鶴は絶対渡さないっ!!」

「幕府の狗に成り下がり、誇りも捨てたか!南雲 薫!!」

「僕は雪村 薫だっ!!」



土方と鈴々音が中庭に辿り着くと、風間と薫が激しく刀を交じり合っていた


幹部達も既に全員駆けつけており、現在千鶴を護る様に取り囲んでいる


闇夜の中、白刃が舞う

だが薫が必死な反面、風間は余裕粛々で


互いの力量の差が、手に取る様に分かる



「こりゃ…」

『…不味いな、薫が不利だ』



浅く舌打ちした鈴々音が、薫の元に駆けつけ様とした瞬間

二人の間に、鋼の雨が降り注ぐ



「はいは〜い!二人共、そこまで!!」



明るい声音と共に、薫の背後に佐助が降り立つ

だが声音とは裏腹に、表情は至って真剣



『佐助、でかした。そこまでだ、風間 千景』



中庭に、凛とした声が響く

その場にいた、誰もが声の主に振り向いた



――その隻眼、全てを見透かす如く

――その振るう剣、阿修羅の如く

――その卓越した知識、軍神の如く



「――新撰組の独眼竜」



風間が呟いた言葉こそ

彼女が【こちら】で囁かれた渾名である



『まさかお前が単独で、屯所に襲撃するとはな』

「俺は自身の嫁を迎えに来ただけだ」

『Ha!!巫山戯るな。てめぇに嫁入りさせんなら、尼にさせるわ』

「っ!?貴様っ!!」



二人の間に冷たく、重い空気が流れ始めた

一触即発の緊張感が漂う

だが――その刹那



「『っ!?」』



突然鈴々音と佐助は目を見開き、身体を震わせた


否。二人だけではない

中庭にいる全員が、驚愕の表情を浮かべている


その理由は、彼等の頭上にあった



「…なんだ、よ…あれ…」



新撰組の屯所上空に、突如雷雲が現れたのだ

しかもこの雷雲、屯所上空のみに発生している


だが鈴々音と佐助の顔色は、他の者達とは違う

驚愕と言うより、青ざめていると表現した方が正しい



「…隊長…俺様、アレ…婆娑羅に見えるんだけど…?」

『…安心しろ…俺にも婆娑羅に見える…』

「『……」』



二人は互いに顔を見合わせ、絶句した


それも当然だろう

この世界に【婆娑羅】は存在しないのだから



『全員退避っ!!』

「雲の下から速攻で逃げてっ!!」




突然鈴々音と佐助が叫び、全員が困惑する



「ちょ、待て!?どういう…」

「隊長!!不味いよっ!!」



雷雲は蛇の様に闇をうねりながら、禍々しい雰囲気を高めている



『っ!?佐助!!アレに今すぐ婆娑羅を全開で打ち込めっ!!相殺するっ!!」

「俺様の婆娑羅だけじゃ無理だって!!」



佐助の悲鳴地味た声に、他の者は深刻な状況と漸く判断出来た



『俺も闇属性の婆娑羅持ってる!!』

「嘘ぉ!?…了解っ!!」



二人の身体の周囲から、漆黒の闇が漂う

その闇は次第に増幅していく



「ここにいる人は、全員退避してよっ!!」

『無事でいられる保証はねぇんだからなっ!!』



そう叫んだ二人は、上空の雷雲を睨み付け、渾身の一撃を放つ


二人の放った婆娑羅技は、上空の雷雲を目指す

婆娑羅技は見事に雷雲に直撃したが、雷雲は勢力を劣らせず



『何っ!?逃げろっ!!



鈴々音の叫び声に、全員が中庭から慌てて退避を始める


だが、既に時遅し

雷雲は全てを飲み込んでいく



――さぁ、始まるよ!!

――狂った歯車が導く、新たな舞台が!!


***
夢主の婆娑羅については追々…


11.12.10.



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