其の三

――歯車が、歪な音を奏でながら回りだす

――ねぇ?何時、気付くの?



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『伊東、甲子太郎?』

「あぁ。近藤さんが江戸で惚れ込んだ人材らしい、おら書類だ」



とある日、土方が鈴々音の自室を訪れた


現在江戸で近藤と平助が、新入隊士を募っている

その一人だと言うが、土方の表情は不機嫌そうだ



『えぇと…どれどれ…』



土方から受け取った書類に、彼女は目を通し始めた

しかし次第に表情が曇る



『北辰一刀流の道場主で、政治・学問にも秀でてる?山南さんとcharacter(キャラクター)被ってんじゃねぇか』

「きゃら…?だから、南蛮語止めろっーの」

『お、悪ぃ』



義兄の癖が移ったか、鈴々音も珠に南蛮語を口走る。しかも無意識に

土方にとって困った癖だ



『北辰一刀流を修めて、学問や政(まつりごと)に通じる…まんま山南さん、て事だよ。つかコイツ、要らなくね?』

「…そう言うな、近藤さんが気にいったんだ。仕方無いだろ」

『成る程な。お前の不機嫌の理由はソレか』

「るせぇ」



図星だったらしく、土方は罰が悪そうにそっぽを向く

それに彼女は苦笑を浮かべる



「隊長っ!!」



そんな穏やかな空気を、切羽詰まった声音が切り裂く

そして屋根裏から、佐助が音もなく降り立つ



「っ!?誰だてめぇ!!」

『佐助?どうした?』



佐助の急な登場に、相反する反応を見せる二人

それも当然な事で…



「…隊長…まさか土方の旦那に、俺様の事…」



土方の反応に、佐助は口元を引きつらせながら鈴々音に問いかける

すると彼女は今思い付いた、と言う表情を浮かべた



『…悪ぃ、報告し忘れた。トシ、コイツは私の部下』

「んな大事な事、報告しとけっ!!」

「隊長らしいや…って和んでる場合じゃないよ、二人共!!屯所に侵入者っ!!」



佐助の言葉に、二人の顔色が一変

真剣な、だが何処か怒りの色が見えた



「誰だっ!?」

「池田屋の時に、沖田の旦那とやりやったヤツ!!千鶴ちゃんが目的みたいで、今は薫の旦那や他の幹部の旦那達が応戦中!!」



彼等との戦いは未だ記憶に新しい



『佐助、直ぐに他の連中の応援に向かえ』



鈴々音は間を置かず、佐助に指示を飛ばす



『最優先は千鶴の安全、危険と判断したら【全力】で排除しろ。俺達も直ぐに向かう』

「了解っ!!」



【全力】と言う言葉に、佐助は不適に笑う

それは鈴々音と彼のみ使える…特殊能力【婆娑羅】の、使用の許可を暗に示す


佐助は鈴々音の指示に頷いた後、風を纏って姿を消した



「…ったく、今日は厄日かっ!!」

『…全くだ』



重い溜め息を漏らしながら、二人は急ぎ足で部屋を出て行く


向かうは屯所、中庭



――歯車は、カラカラ回る

――其れは、狂った歯車



11.12.02.



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