其の二

『てな訳なんだけど』

「……おい」



数日後

鈴々音の姿は、土方の自室にあった


彼女の用件は、薫の入隊について、だ

だが内容を聞いた土方は、直ぐに青筋を立てる


それもその筈だ。薫は元とは言え、【土佐藩士】だった人物

そして土佐は、新撰組と敵対する組織だ



『薫は入隊出来るんなら、情報提供は惜しまない…ってくれてるぜ?生き別れの兄妹を会わせない程、お前は非情か?』

「んな事言ってねぇだろうがっ!!」



肩をすかしながら、滔滔と語る鈴々音に土方はつい叫ぶ

すると土方は溜め息を漏らしながら、口を開いた



「ソイツは本当に信用出来んだろうな?後で寝返るとか勘弁だぜ…」

『それは大丈夫だろ。薫は千鶴を目に入れても、痛くない程可愛がっとるし』

「……」



カラカラと笑う彼女を余所に、土方は頭を抱える


薫も鈴々音に救出された直後は、千鶴を恨んでいた

だが千鶴が何も知らずに育った【理由】を知った途端、彼の態度は一変


極度の妹馬鹿になった



『それにな…薫は引き取り先で、人とは思えない扱いを受けてきた。屯所の連中と共に過ごせば、少しは【失ったモノ】を取り戻せる筈だ』

「ったく、しょうがねぇ…近藤さんに聞いてやらぁ」



重い溜め息を漏らしながら、土方は渋々頷く

流石に鬼の副長と呼ばれている彼も、そこまで非常ではない


彼の言葉を聞き、鈴々音つい苦笑を浮かべる



『近藤さんなら事情聞いて、直ぐにでも了承しそうだな』

「……近藤さん、だしな」



*****



――翌日



『んな訳で。本日付けで、俺の直属の部下になった…』

「千鶴の双子の兄、雪村 薫です。宜しくお願いします」

「何ぃぃぃ!?」




幹部は至急大広間に集まる事

土方からの言伝に、皆は何事かと足を運ぶ

そして広間で鈴々音が落とした爆弾発言に、全員が度肝を抜いた


それもその筈

千鶴に双子の兄がいた等、初耳なのだから



『薫と千鶴は赤ん坊の時に生き別れ、別々に引き取られた…薫』

「うん…千鶴、これを見て」

「そ、それはっ!?」



薫が皆に見せたのは、装飾が見事な大太刀

それを見るなり、千鶴は口元を手で覆う



「太刀?」

「これは雪村家に代々伝わる大太刀。千鶴、お前も持っているだろ?これと装飾が全く同じ小太刀を」

「…はい」



千鶴は大切そうに、小太刀を取り出す

大太刀と小太刀、対なる刀が並ぶ



「僕が千鶴と兄妹の証は、この対の太刀。亡き両親が持たせてくれたモノ」

「…にい…さん?」



千鶴は震える手を、薫へと伸ばす

柔らかな笑みを浮かべ、薫はその手をしっかりと握った



「千鶴、もう一人にしないからな」

「うんっ!!うんっ!!」



涙ぐみながら千鶴は、薫に抱き付く

薫も失った半身を取り戻すかの様に、千鶴を大切そうに抱きしめる



『薫は今後、千鶴の警護に当たって貰う。また手が空いている時は、俺や隊長格の補佐もする。これは近藤さんの許可付きだ、文句は言わせねぇぞ』



生き別れの兄妹の再会

鈴々音直属にして、近藤の許可も降りている


これに誰も文句が言える訳もなく


南雲 薫改め、雪村 薫

正式に新撰組入隊が決定した




――歯車は回る


――時は満ち足り



11.11.26.



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