其の一

――時は幕末、動乱の世

その動乱の世を生き抜く、侍達がいた

彼等を人達はこう呼ぶ



【新撰組】と



その彼等の中に、異質な存在があった

それは【時を越えて来た】者



――戦乱の戦国時代を生き抜いて来た、女武将


――平行世界の伊達 政宗公の義妹、が



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京の都、端に位置する新撰組屯所

その屯所の一室に、眼帯を着けた好青年が書類を睨んでいた


彼…否、彼女こそ

幕末を生きる、女戦国武将

新撰組監察方、医療隊を統べる



――伊達 鈴々音



現在彼女は性別を偽り、また素性を隠す為に偽名を名乗っている

鈴々音の素性を全て知り得る者は、新撰組でも副長である土方のみ


他の幹部達は、何も知らされていない



『……どうすっかな、これ』



睨んでいた書類を机に放った彼女は、重い溜め息を漏らす

その書類には、達筆な文字が流れていた



「隊長、どったの?」



不意に響く、軽快な声音

それと共に漆黒の忍衣装を纏った男が、鈴々音の背後に降り立つ



『…佐助、気配を絶って降りてくんな』

「あはー、ついつい…で、どしたの?」



橙色の髪を持つ彼こそ、かの有名な猿飛 佐助

別名【オカン】とも呼ばれるが、彼が必死に否定しているので触れないでおこう


鈴々音が京に来て暫く後に、佐助は突然やってきた

第一発見者の彼女は直ぐに匿い、そして現在は影からの支援を頼んでいる



『これ』



佐助に鈴々音は、先程睨んでいた書類を手渡す

すると佐助の表情が、驚愕の色に染まっていく



「……えー?」

『いや…本人の意思は尊重してぇんだが、な』

「土方の旦那…何て言うだろうね」

『そうなんだよ。新撰組の人事は、トシの管轄だからなー』



二人が困り果てる様に話しているのは、ある一人の少年の件


――南雲 薫 新撰組入隊希望


これには佐助と鈴々音が絡んでいた



佐助に調べて貰っている中で、千鶴の兄・薫の存在が発覚

薫の事を調べて行く内に、彼はかなり悲惨な人生を歩んでいる事が分かり

これはいかん、と。鈴々音が策を思考、佐助が行動に出た



薫は現在南雲家から解き放たれ、京に滞在している

その彼から、新撰組に入隊したい…との嘆願書が出されたのだ



『説明…するっきゃねぇか、面倒臭いが』

「…隊長ぉ…そうだ、山南の旦那の具合は?」

『あぁ、佐助のお陰で最悪の事態は免れたよ』

「良かった〜」



大阪出張に土方と山南が向かった際に、実は佐助も動向しており

彼の暗躍により、山南の怪我が軽少で済んだ


もし佐助が居なかったら、山南は二度と刀を振るえなくなる大怪我を負っていただろう



『薫の件は…とりあえず保留かね』

「直ぐに良い返事が出るとは、俺様も思えないよ」

『あぁ…佐助。情報収集は以後も頼んだ』

「俺様にお任せあれ、ってね!」



時は元治元年 七月

禁門の変が起き、新撰組の名が一層知れ渡る頃


然しながら、彼等は知らぬ



――これから起きる事を




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