あれから月日は流れ――

紫苑は六歳を迎えた



『お呼びでしょうか、義父上』



紫苑は義父である輝宗に呼ばれ、彼の自室を訪れた



「あぁ、紫苑。固くならんで良い、中に入れ」

『……失礼します』



気さくな義父に内心呆れつつも、紫苑は彼の自室に足を踏み入れる



この頃の紫苑は既に、大人顔負けの言葉使いを使用しており

頭も切れ、周囲からは【麒麟児】とも呼ばれる位に成長していた


だがその反面、彼女に対する罵声等は変わらず

【麒麟児】と呼ばれる様になってから、多少減ったが



それでも"多少"だ



「お前に紹介したい奴が居てな…入って来い!」



すると隣の部屋から、二十代半ば程の男性が現れた

彼を見た紫苑は、首を傾げる



『…義父上の小姓さんの…小十郎兄様に似てる…?』

「流石紫苑だな、こいつは小十郎の異父兄だ」



ニヤリと笑った輝宗に対し、彼は柔らかく微笑む



「初めまして、紫苑様。小十郎の異父兄の鬼庭 綱元と申します」

『多分ご存知でしょう、義娘の紫苑と申します…義父上、何を企んでおいでですか?』



綱元に頭を下げた紫苑は、輝宗を半目で睨んだ



「ひでぇな、おい」

『義父上がニヤけたお顔の時は、大概何かを企んでいる時です。しかも面倒事…お気付きでしたか?』

「…相変わらず、洞察眼鋭いな…」

『お褒めのお言葉として頂きます。で、何企んでるんです?』



溜息混じりで紫苑が問うと、輝宗はニヤリと笑った



「綱元を今日付けで、お前の付き人とする!」

『…………はぁ?』



輝宗のその突拍子な言葉に、紫苑はたっぷりの間を置いてから、目を見開いた



「お前も良い歳だろうに」

『お言葉ですが義父上…私はまだ六歳です。しかも兄上を差し置いてなど…』



彼女は断固として、断るつもりだった

それは彼にも、罵声・暴力の被害が被ると考えての上での事


だが輝宗はそれを読んでいたのか、更に爆弾発言を投下した



「梵天丸にゃ、小十郎を付けるから安心しろ」

『はいぃぃ!?』



ア然とする紫苑に、ニヤニヤと笑う輝宗

隣の綱元は苦笑いを浮かべていた



「綱元は武術も優れているが、何かと博識でな。【麒麟児】と唄われてるお前には、良い采配だと思うんだが」

『(このクソジジイ)』



国主である輝宗の命は絶対、元より決定事項だったのだろう

そうなると紫苑に拒否する権限は皆無であり、彼女は受け入れざるを得ない結果となる



『……承知、致しました』



■■■



『…本当に、良いのか?』

「勿論でございます」



輝宗の自室を後にした紫苑と綱元の二人は、人影少ない所へと移動した



『私が、何と呼ばれているか…分かっていても、か?』



哀しみの色を含んだ瞳で紫苑は綱元を見上げるが、彼は柔らかな笑みを浮かべるだけ



「貴女様に仕える事は、私から希望したのでよ紫苑様。これから貴女様はお一人ではありません、私が常にご一緒致します」



綱元の言葉に彼女は僅かに固まったものの、直ぐに表情を崩す

それは年相応の、満面の笑み



『………ありが、とう…』



以後

綱元は宣言通り、片時も紫苑の側を離れる事無く


師弟の様で、兄妹の様なその関係は


紫苑が元服しても続く事となる



肆 完


11.11.28.
mae tugi





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -