「はぁ…はぁ…」



森の中を、一人の女性が駆け抜ける


その身なりは質素だが、雰囲気は何処か違う

何処か…高貴的な雰囲気を醸し出している



だが彼女の表情は、何処か険しい


焦燥、恐怖、悲しみ…様々な感情が入り交じった表情だった


不意に女性は、身体を地へ伏す



「ふぎゃぁ…ふぎゃぁ…」



彼女の腕(かいな)には赤子の姿が



「ごめんなさい…母様、もう…」



一筋の涙を流し、赤子に寄り添う女性

彼女の細い身体から、紅い紅い液体がとめどなく流れる



「もし…どうなされた?」



頭上から掛かる男性の声に、女性は思わず声の方を見やる


そこには薄い茶髪と、薄い青瞳を持つ男性がいた



「…貴方は…」

「私は伊達 輝宗、この奥州を統べる者」

「奥州…ここは奥州なのですね…」



女性は安堵の息を吐くと、輝宗に向き直る



「私の名は雪乃、雪原の雪乃と言えばお分かりでしょうか?」

「なっ!?」



輝宗は驚きからか、目を見開く

女性は息を荒げながら、続けた



「貴方は民思いの方と、父からお聞きしております。輝宗様…雪乃の一生の頼みを、聞いて貰えませぬか?」

「……頼み?」



雪乃は頷くと、腕に抱いていた赤子を彼に見せる



「この子は私と、私が愛した方の愛し子。ですがあの方は…乱世の闇に取り込まれてしまい…私ももう…」



雪乃の言葉に、輝宗は苦渋の表情を浮かべた

彼女の傷は深い…手当てを施しても…助かる見込みは少ないだろう



「この子は私と父、そしてあの方の血を受け継いでしまった…。

私はもう長く…ありませぬ…。

どうか…私の愛し子を…」



懇願する彼女に、しばし輝宗は悩む

だが決心したのか、赤子を受け取る



「赤子の名は?」

「……紫苑、と…」

「紫苑…良い名だ」

「これを…どうか…娘を…」



雪乃は輝宗に漆黒の小太刀を渡すと、息を引き取った

輝宗は配下の忍に、彼女を手厚く葬る様に指示を出す



「…紫苑…今日からお前は伊達 紫苑だ!」

「う?うきゃあ!」



紫苑、と呼ばれた赤子は、無垢な笑みを零す


――これが、始まり



序章 完

mae tugi





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