「しんどいん?」
『少し…』
全てが終わるまで数刻はかかった
青葉は疲労感を、別の意味で感じていた
今土方と喜一が、値段交渉に入っている
「ほんま青葉はんは、よう青色が似合うよって。これで着物来よったら、男連中放っておかんよ?」
青色は青葉にとって、今までいた所の象徴する色だ
実際青葉も青色を好んでいる
『女物、動きづらいから嫌』
即答する青葉に、早紀は苦笑するしか出来なかった
「嫌て…ほんま、変わったお人やなぁ」
***
呉服屋を後にした土方と青葉
『…しかし…何っーか、特色のある主人だったな…』
「…悪い奴じゃねぇんだがな…」
土方は口元を引き攣らせた
『しかし…あの主人とは、最近の付き合いじゃねぇだろ?』
「あぁ。俺がまだ多摩にいた頃、江戸の呉服屋に奉公に出た事があってな。あいつらとはそこで出会ったんだ」
当時を思い出しているのだろう、懐かしい様な瞳を浮かべる土方
「まさか京で、あいつらと再会する事になるとは思わなくてな。会った時はそりゃ驚いたもんだ」
苦笑を漏らす土方に、青葉は薄く笑みを浮かべる
不意に土方は懐から包みを取り出す
包みから【何か】を出すと、青葉の髪に挿す
『は?』
シャラン、と音が鳴る
土方が取り出したのは、簪
淡い桜色の石が着いた、至って質素な、だが上品な品物だった
『…かん、ざし?』
「男装してるっても、こういうのを持ってたって良いだろ?」
柔らかく微笑む土方
青葉は少し呆然したものの、直ぐに淡く笑みを零した
『持ってても、何時使うんだよ…』
簪が風に揺れて音を起てる
言葉上ではボヤく青葉もやはり嬉しい様で、口元が緩む
青葉の髪で揺れる簪を見て、土方は満足そうに笑みを深めた
夕暮れの光が注ぐ中、二人は屯所へと足を運んだ
不器用 完
***
時期的に短編の【秘め事】と、そう変わらない頃の話です
着の身着のままの夢主がどうしたのか、という所から来ました
余談ですが、お早紀さんはお気に入り
mae tugi
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