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「おい、出掛けるぞ」

『……はい?』



いきなり自室に入るなり、土方はつっけんどんに青葉へ告げる


突然過ぎて青葉の目が、皿の様に見開く



「ぐずぐずしてんな、行くぞ」

『お、おいっ!』



呆ける青葉を、土方は無理矢理引っ張っていった


***



青葉が土方に連れてかれ、辿り着いた先は――



『呉服屋?』



立派な建物を見上げる青葉に、土方は溜息を漏らした



「お前、何時までも俺の着てる訳にはいかねぇだろ…」

『あ…』



今青葉が着てる着物や袴は、土方の物


着の身着のままの青葉は、当然着替えも何もなく

千鶴から借りる手もあったが丈が足りず、結局背丈が同じ位の土方に借りたのだ



「呆けてねぇで行くぞ」



中に入ると、40代半ば程の、物腰の柔らかそうな男性が出迎えてくれた



「番頭、喜一はいるか?」

「へぇ、土方はん。旦那、土方はんがいらっしゃいましたぇ」



番頭が奥に声をかけると、足音を起てて主人がやってきた


歳は土方と同じ位だろうか、人懐こい雰囲気がある



「よぉ、お前が来るなんて珍しいな。明日槍でも降んじゃねぇの?」



開口一番彼が、土方に向けて発したのがソレ

彼の客に対しての接し方に、青葉は仰天した



「…お前、本当に変わんねぇよな…」

「お前にんな言葉遣いは、必要ねぇだろうが」



ガハハと笑う主人に、土方は苦笑を漏らす



「確かにな」



彼等の軽快な会話に、青葉は首を傾げる



「で。今日はそこのお嬢さんの、着物の仕立てが目当てってとこか?」



へらりと笑う主人の笑みは興味半分、からかい半分

青葉は主人の言葉に、表情を強張らせる



『…知り合い、か?』

「トシ、紹介しろやー」

「…あー、訳ありってやつだ。青葉…こいつは井塚喜一(いのづか きいち)っう女っ垂らしで、助平野郎だ」

「酷くねぇ!?」



不満の声を上げる喜一に、土方は横目で睨む



「だったらてめぇでしやがれ」

「ったく、改めて…当主人、井塚喜一だ。
上・下(かみしも)関係なしで、商品提供をしている。金さぇ積んでくれりゃ、要望は聞くぜ?特に君みたいな綺麗な子は…アダッ!



喜一に容赦なく拳骨が降り注いだ



「この阿呆兄貴!店先で何しとるん!」

「早紀!」



喜一の後ろで、青葉とそう変わらない位の女性が仁王立ちしていた



淡い桃色の着物に、緑の帯を締める、気立ての良さそうな女性



「土方はん。毎度毎度うちの馬鹿兄貴が、すんまへんなぁ」

「…あんたも変わらねぇな、お早紀さん」



早紀と呼ばれた女性は、土方に軽く頭を下げる

土方は気にするな、と言わんばかりに、苦笑を漏らした


彼女の視線が土方から青葉へと移る



「今日はこの方の?」

「あぁ」


にっこりと笑みを深めると早紀は、口を開く



「初めまして、喜一の妹のお早紀どす。馬鹿兄貴がほんまに、すんまへんなぁ…」

『あ、や…構やしませんけど…』



少々押され気味の青葉、言葉が濁る



「よっしゃ!んじゃお嬢さんの為に、とびっきり上等な着物を見立ててやっか!」



早紀に怒鳴れた喜一が早々に復活し、意気揚々と宣言する

だが土方に出鼻をくじかれる



「阿呆。こいつはこれでも、新選組の隊士として連ねてんだ。今回は男もんを買いにきたんだよ」

「えぇー、勿体ねぇー」



口を尖らす喜一


早紀は喜一を無視して、青葉を中へと促した



「馬鹿兄貴は放っておいて、いくつか試着してみまひょ?」

『は、はぁ…』



店内の奥部屋に通された青葉は、早紀に数々の着物を試着させられた



mae tugi







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