バイバイ


時間が無い
まず平坂組のPCデータのバックアップを取って。使い方のイロハと、何かあった時の対処法を書き出さなければ…

恐らく、私が考えてる以上に時間は無い



「奈央?」



四代目さんが怪奇そうに声を掛けてきた。筆が早々と動いていれば、当然だろう



【そう言えば、何で四代目の背後霊になったんだろ、私】

「今更じゃねぇか」

【何か、理由があると思ってさ】



理由はある
だがそれを四代目に、告げるつもりはない



「気付いたら俺の背中にいたんだろ?理由もへったくれもねぇだろ」

【何それ?】



四代目との会話は楽しい
確かに口調は悪いけど、彼らしい思いやりが節々に見えるから



「……何、隠してやがる?」

【なんにも】



でもこういう鋭いトコは嫌い
全てを見通すかの様な、鋭い眼光は苦手



「お前、ウソ付けないって自覚してるか?」

【嫌でも】



平坂組の皆曰く、私はウソがバレバレらしい。悪かったですね



「……頑固者め」

【それも自覚してる】



離れたくない
それが私の本音で、本心。おかしいよね…四代目とは年が離れているし、住んでる世界が違うのに…それでも私は、彼に惹かれてた


四代目との奇妙な生活も終わりが近付いてる


記憶を取り戻したから…
でも恐らく、この数ヶ月の記憶は消えてしまうだろう

これは推測でなく、確信



「………お、前…」



突然四代目が目を見開く
どうしたのだろう……待って待って。彼の視線は、私に向けていないか?四代目は私が見えてない筈…



「お前…園芸部の…?」

――…ウソ…見えて、る?



まさか、今更でしょ?



「いや見える。つか声も聞こえたぞ」



ええっ!?何でっ!?



「名前を聞いて、まさかとは思ってたが…」



やっぱり四代目、気付いてたんだね…



「園芸部のクラスメイト、だったんだな」

――…うん…記憶、戻ったよ

「何でそういう肝心な事を、後から報告する…」



あー…前にもやったね



――…四代目、この奇妙な生活はもう終わるから

「あ?」

――…だから安心して?

「お前…まさか…」



四代目と一緒にいたい
けどそれは無理、私の身体が私を呼んでる。私はまだ生きてるから

ゆっくりと四代目の前に浮かぶと、自身の唇を彼に押し付けた



「っ!?」

――…覚えて、いたかったなぁ…



…駄目、もう持たな、いや…



「奈央っ!?」



――…バイバイ




(さよなら、私の愛しい人)


11.10.25.

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