―――それはまるで。鞘を持たない、抜き身の刀の様な瞳だった








「では数日間ですが、お願いします」

「はい、こちらこそ。至りませんが、宜しくお願いします」



時は数年前に遡る

小磯 凪が、まだ防衛大学に居た頃




現役陸上自衛隊である陣内 理一の姿は、防衛大学にあった



自衛隊にも顔が利く祖母を持つ彼は、防衛大学校発幹候経由のエリート士官


その素晴らしい逸材と、随一の美丈夫

物腰の柔らかさと洞察眼は、自衛隊の本部上層部も認めている由


彼が今回防衛大学を訪れたのは、人材育成の為だ

勿論、本部上層部からの依頼



それが数日前

今や彼は、防衛大生徒達の人気者だ。特に女生徒から



「(…あ、あの子だ…)」



不意に理一の視界に、ある女生徒が写る




――――小磯 凪


防衛大学学年トップを独走する、秀才生徒

感情は薄く、淡々……いや冷めていると言った方が正しいだろう


自身のやるべき事を黙々と熟し、模範【過ぎる】生活を送る

友人が居る…と思いきや。実際はそんなに仲が良い訳でもなく、浅く広い付き合い


だが冷めている一面、情に厚く世話焼きの一面も垣間見れる


そんな彼女はある意味で、教師側にとっての問題児であり

勿論理一にも、凪に対して注意が促されていた



「(…やっぱり…似てるな、佗助に…)」



彼が特別講師となってから

その瞳は、不思議と彼女を追っていた



「(昔の佗助と同じ【瞳】をしている)」



無意識の内に理一は、自身の身内と凪を重ねてしまう

結果的に視線は、複雑なものになる


それが続けば彼女も流石に気付き、最近不機嫌になるのが増える傾向にあった



「(…こりゃ嫌われたかな?)」



内心苦笑する彼は、凪が自身の存在を否定的というのを察している



――彼女と話がしたい



何故かそう思う理一だったが…凪は彼を、故意的に避けていた



「(仕方ない…気長に待つか…)」



無理強いも出来ず、理一は呑気にそう思案する




そんな事が続いた、ある日―――


彼に転機が訪れた



「やぁ」

『…………コンニチワ』



何故か凪と理一が鉢合わせしてしまう

しかも偶然か、周囲には全く人気が無い



「君とは以前から、話がしてみたくてね」

『……自分、用件がありますので、失礼します』



彼女は逃げる様に、踵を返す

だが――



『………何でしょうか?』

「良いじゃないか、少しくらい」



彼が凪の腕を掴み、それを制す

終始笑顔の理一に、彼女は表情が歪む



「君にどうしても聞きたい事があって、ね」

『聞きたい、事?』

「うん、そう。

そんなに他人を信用出来ない?


『っ!!』



彼の言葉に、凪は目を見開く

微かにだが、彼女の腕越しに震えが伝わる


理一は驚く凪を他所に、再び口を開く



「本当に上手く隠していたね、教師の方々も気付いてないよ。そりゃそうだ、君はそんな素振りは見せてない」

『………いつ、きづいた、んですか?』



絞り出す様に彼女は言葉を紡ぐ、その声色は弱々しく

彼の表情から笑顔が消え、真剣な眼差しが凪に突き刺さる



「その瞳(め)を見て、一発で分かったよ。似た様な奴が、近くに居たからね…」

『…同情、でもする気か?』

「何で?」

『は?』



凪の返答に理一は、目を瞬かせた

何故自身が、彼女を同情しなければならない?


一方の凪は、彼の意図が掴めずに、目を見開いて固まっていた



すると理一は、苦笑を浮かべる

そして掴んでいた手を離し、彼女の頭の上に乗せた



「俺は同情する為に、君に接触した訳じゃない」

『じゃ…何で…』

「疲れないかい?そんな事してて?俺には君が、悲鳴を上げてる様に見えたよ。
…助けて、一人ぼっちは嫌って、ね」

『っ!!』



刹那

彼女の瞳が大きく揺らぐ


彼は気付いていた

凪は決して、他人を信じていない訳ではない


ただ何かしらの理由が、トラウマか何かあって…他人を信じたくても、信じたられないのだろう…と



「今すぐ信じろ、とは言わない。けど少しずつなら出来る筈だ」

『………』

「辛くなったらいつでも俺の所においで。愚痴でも泣き言でも、何でも付き合ってあげるよ」



柔らかく笑む理一に、彼女は瞳を僅かに潤ませる



『…何で…そこまで私にするの?』

「…さぁ…何で、だろうね?」



苦笑を漏らしながら、彼は優しく凪の頭を撫で回す

理一は彼女の問いには答えず、はぐらかす



「(複雑な生い立ちの【彼】と重ねた、なんて言ったら怒るだろうな…)」



凪の頭を撫で回す、彼の手が急に止まる



「………っ」



目を見開いていた理一だが、薄く笑みを漏らす


彼の視線の先にあるのは



赴任して、初めて見るだろう



凪の……満面の笑顔だった




***
過去編シリーズ 3夢主と理一の出会い 理一vr.

文章的に夢主vr.と被ってますが、ちょいちょい変えてます…ちょいと所じゃなく分かりにくいですが…






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