―――見た瞬間に悟った、コイツは相入れない奴だと








「おー、今回も凪がトップか」

『………』



時は数年前に遡る

小磯 凪が、まだ防衛大学に居た頃



「……どした?」

『……いや……悪い、用事がある』

「おう、またな」

『……ああ』



当時の彼女は、非常に淡々としていた

正しくは【冷めている】、というのが当て嵌まるだろう



自身のやるべき事を黙々と熟し

規則正しく【過ぎる】生活を送り

友人が居る…と思いきや。実際はそんなに仲が良い訳でもなく、浅く広いだけ



凪はある意味で、教師側にとっての問題児であった


そんな彼女が最近、不機嫌になるのが増える傾向にある

それはつい先日、特別講師としてやって来た【彼】の存在があった




―――陣内 理一

現役陸上自衛隊員

自衛隊にも顔が利く祖母を持つ彼は、防衛大学校発幹候経由のエリート士官

つまりは凪の先輩に当たる


その素晴らしい逸材と、随一の美丈夫

物腰の柔らかさと洞察眼は、自衛隊の本部上層部も認めている由らしい


彼が今回防衛大学を訪れたのは、人材育成の為だ



『(…気にいらねぇ…)』



そんな随一の美丈夫の彼が訪れたのだ、女性達が放っておく訳なく


だがそこは防衛大学

表では普通にしているものの、裏ではキャアキャアと騒ぎ立てていた



だが凪は違う

彼を、陣内 理一と言う存在そのものを否定的で


それについては、実は理由があった



『(んだよ、あのムカつく視線はっ!!)』



そうなのだ

理一は何故か、何時も彼女を視界に入れる


そしてその視線は、複雑なものだった



『(あれは……同情を含む視線だっ!!)』



凪は自身の出世を、既に把握している

それ故に同情関係等は、彼女のプライドが拒否していた



そんな事が続いた、ある日―――






「やぁ」

『…………コンニチワ』



何故か凪と理一が鉢合わせしてしまう

しかも偶然か、周囲には全く人気が無い



「君とは以前から、話がしてみたくてね」

『……自分、用件がありますので、失礼します』



彼女は逃げる様に、踵を返す

だが歩みが進む事はなかった



『………何でしょうか?』

「良いじゃないか、少しくらい」



そう、彼が凪の腕を握って歩みを制したのだ

終始笑顔の理一に、彼女は表情が歪む



「君にどうしても聞きたい事があって、ね」

『聞きたい、事?』

「うん、そう。

そんなに他人を信用出来ない?


『っ!!』



彼の言葉に、凪は目を見開く

理一は驚く彼女を他所に、再び口を開いた



「本当に上手く隠していたね、教師の方々も気付いてないよ。そりゃそうだ、君はそんな素振りは見せてない」

『………いつ、きづいた、んですか?』



絞り出す様に凪は言葉を紡ぐ

すると彼の表情から、笑顔が消えた



「その瞳(め)を見て、一発で分かったよ。似た様な奴が、近くに居たからね…」

『…同情、でもする気か?』

「何で?」

『は?』



理一の返答に、彼女は目を瞬かせる。彼の意図が掴め無いからだ

すると理一は苦笑を浮かべ、掴んでいた手を凪の頭の上に乗せた



「俺は同情する為に、君に接触した訳じゃない」

『じゃ…何で…』

「疲れないかい?そんな事してて?俺には君が、悲鳴を上げてる様に見えたよ。
…助けて、一人ぼっちは嫌って、ね」

『っ!!』



刹那

彼女の瞳が大きく揺らぐ


凪は他人を信じていない

だがそれは自身を防衛する為であって、本音では他人を信じたいと思っていた


しかしながら、それは簡単に出来るものではない

幼い頃から培われた経験と恐怖が、彼女の足をすくませていた



「今すぐ信じろ、とは言わない。けど少しずつなら出来る筈だ」

『………』

「辛くなったらいつでも俺の所においで。愚痴でも泣き言でも、何でも付き合ってあげるよ」



柔らかく笑む理一に、凪は瞳を僅かに潤ませる



『…何で…そこまで私にするの?』

「…さぁ…何で、だろうね?」



苦笑を漏らしながら、理一は彼女の頭を撫で回す


そして彼は、その時に初めて見た



凪の……満面の笑顔を



***
過去編シリーズ2
夢主と理一の出会い 夢主vr.

防衛大学については、申し訳ありませんが捏造。後に理一vr.もupします





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