――それは、誰も知らない事
――否。知らない方が幸とも言える
時を遡る事、20年前――
ある女性が身振り構わず、走り続けていた
≪……ごめんね……≫
彼女の腕には、まだ生まれて間もない赤子の姿
薄い青色の産着に包まり、寝息を起てていた
≪……ごめんね……≫
母である女性は涙をポロポロと流しながら、赤子を抱きしめる
その表情は悲しみと苦しみ、そして絶望が折混じったもの
≪…お父さん、貴女を認めてくれなかったの…お父さんだけじゃない…皆、皆……貴女の存在を否定してる……可笑しいよね、貴女はここに生きているのに……≫
涙を流す彼女の顔色は、どこか優れなく
瞳もどこか虚ろ
≪……お母さんは、貴女を育てられなく、なっちゃったの……ごめんね……≫
そう言うと彼女は腕に眠る赤子を、そっと路地へと置く
そして赤子の産着に、一枚の紙を挟んだ
≪……姉さん……貴女は幸せでしたか?あの一族の御当主の妾(めかけ)になって…あの子を産んで…≫
座り込み、赤子を優しい瞳で見詰める彼女
良く良く見ると、彼女の頬は痩せこけているではないか
≪…あの男の子は、きっと…聡い(さとい)子に、育つわ…だって姉さんの子だもの≫
女性はゆっくりとした動作で、立ち上がる
顔だけではない、彼女の手首や足首まで痩せこけいる
≪…この子も…あの男の子の様に、聡い子に…なってくれる…かしら?他人を思いやれる、優しい子になってくれる…かしら?≫
彼女の指が、赤子の産着に挟まっている紙を掠る
紙には【凪】と書かれていた
≪…凪…風が無い波が静かな海…
穏やかな優しい女の子に育つ様に、姉さんが付けてくれた、名前……姉さんだけ、貴女を認めてくれてたわ……≫
次第に女性の瞳に、歪んだ光が灯る
光は徐々に広がり、闇へと変貌した
≪………生きて……≫
―――数日後
赤子はとある夫妻に拾われ、一命を取り留める
またその夫妻は、赤子を養子として引き取った
そして―――
ある女性が変貌した姿で発見されたと、小さくニュースで流れた
***
夢主過去・誕生編
書いてて無茶苦茶辛かったです。重い…これ以上は無理…
これとは別に、キャラ過去編はちびちびUPしていきます。流石に暗くはない……筈……
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