陽も暮れ、夜の帳がすっかり降りた頃



「……まだ、かなぁ……」



夏希は陣内家の縁側で、一人踞っていた

彼女の表情は不安げに歪み、今にも泣き出しそうな勢い



「…何、アンタまだ居たの?」



そこへひょっこりと、直美と理香が現れた

夏希はふて腐れた表情で、二人に振り向く



「何よ、その表情…」

「だってぇ…」

「健二君なら大丈夫よ、理一が一緒なんだから」

「……ん」



栄の葬式後

健二はOZのパスワードを解いてしまった件で、夕方に理一と警察に出頭した


出頭…とは言うものの、警察に事情聴取されるだけなのだが

その彼の帰宅を、夏希はまだかまだかと、ずっと縁側で待っているのだ



「夏希も心配性ねぇ…」

「…理香さぁん…」



呆れた様な声色で理香が呟くと、夏希は怒気を孕んだ言葉を返す



「大丈夫よ、事情聴取だけなんだから」

「……でも、遅い……」



彼女の返答に、成人女性二人は肩を落とした


そこへ、機械音が軽快に鳴り響く。発信源は夏希の携帯

ゆっくりとした動作で彼女は携帯を開くと、一通のメールが届いていた



「…メール?」



首を傾げながら、夏希はメールBoxを開く

途端に彼女の目が見開いた



「どうしたの?」

「………これ」



不思議そうに首を傾げた二人に、夏希は携帯を見せる


そこには

【健二は戻る、夏希は信じて待ってろ】


との簡易なメッセージが


送信者は、健二の義姉……凪からだった



「……あの子らしいわねぇ!」

「夏希の行動、筒抜けみたいねぇ?」

「うぅ…凪さぁん…」



メールの内容に、二人は爆笑

気まずい様に夏希は携帯を睨む



「確かに凪の言う通りね、アンタは健二君を信じて待ってなさいよ」

「………うん」



直美が彼女の頭を乱暴に撫でると、僅かだが夏希の表情に笑みが戻る

不意に、理香が顔を明後日の方に向けた



「理香さん?」

「…夏希、聞こえない?」

「…え?」



理香の言われるままに、彼女は耳を澄ませてみる

すると聞き覚えのあるエンジン音が、聞こえてきた



「あっ!」

「ほら、ちゃんと帰って来たじゃない」

「うん!迎えに行って来る!」



満面の笑みを浮かべた夏希は、そう言うと玄関へと駆け出す

彼女の後ろ姿を見ながら、二人は苦笑するだけ



「まぁったく…鳴いてたカラスがもう笑ったよ」

「本当、健二君と両思いになった途端にコレだもの」

「健二君も大変よね」

「確かに…健二君と言えば、凪も夏希の性格良く分かってるわねぇ」



二人は踵を返し、居間へと向かう



「そうよね、本当しっかりしてるわ。アレで私達よか年下なんだからね」

「理一が惚れる訳よねぇ…あの子、自衛隊じゃかなり有能らしいわよ」

「何?じゃ理一とはお似合いじゃない!」



夏希と健二の話題は何処へやら

二人の話題はいつの間にか、凪と理一に



「…理一が帰って来たら、凪との馴れ初めでも問い質す?」

「あ、ソレ良い!」



そんな会話がされているとは、露知らず

聞き慣れたエンジン音は、陣内家の玄関前で消えた



***
続編、一発目
夏希中心だった筈が、いつの間にか予定とは違うのに…アレ?







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