自身の弟に呆れて苦笑する凪は、踵を返す

その行き先は己の愛車



「凪!」

『…理一先輩』



凪の行動に気付いた彼は、抜け出して来た様だ



「…もう、行くのか?」

『…えぇ…もう少し、居たかったんですけど』



そう言うと彼女は、穏やかな瞳で健二達を見やる

その瞳に、理一は眉を潜めた



『理一先輩。健二の事、宜しくお願いしますね』

「あ、あぁ」

『…此処に来れて良かった…色々あったけれど、自分が変われたから』

「…凪…」



それは自身の生まれの事だろう


彼女はその事で、精神が不安定な時期があった

陣内家に来るまで、ソレを引きずる程



『…栄おばあちゃんに出会えて…本当に、良かった』

「…そうか…」



不意に理一は、凪からの視線を感じた



「…凪?」

『あ、いや…栄おばあちゃんの言葉を忘れる所でしたよ』

「ばあちゃんの、言葉?」



首を傾げる彼の襟元が、急に引っ張られる


次の瞬間、理一は目を見開く



「…っ!」



二人の唇が、重なり合っていたからだ


それに目敏く気付いた子供達は、二人を指差して叫ぶ



「あー!理一おじさんと凪お姉ちゃんがチューしてる!」

「何ぃっ!?」




暫く重なっていた二人の唇

凪がそっと離し、彼の唇をペロリと舐めた


これには彼も赤面し、目を見開く



『もーらい!』

「な、な、な……!?」



呆然とする理一に対し、凪は不敵な笑みを浮かべる



『予約しときます、そこら辺の女に捕まらないで下さいよ?』

「よ、予約っ!?」

『そ。私、栄おばあちゃんから、理一さんの事を任されちゃって』

「なぁ!?」



彼女の爆弾発言に、健二を除く皆が驚く



『理香さーん!理一さんに虫、付かない様に見てて下さいねー?』

「あ、え…あー、分かったわ」

「姉ちゃん!?」



最初は驚いていた理香だが、直ぐに笑みを浮かべ

彼女の返答に理一は慌てふためく



『健二ー!夏希泣かしたらボコるからなー!』

「……了解」

『それから、私これから岐阜基地に戻るけど、父さんが帰国する頃には実家に戻れる様、何とかするから。母さんに連絡入れといてー!』

「うん!」



始めの台詞に健二は表情を引き攣らせてたものの、次の台詞を聞いて満面の笑みを浮かべる


凪は理一に再度振り向くと、彼の胸に指を差した



『と…そういう事ですので…変な女に捕まらないで下さいよ?』

「……良いのか?」

『は?』



呆然とする理一から、小さく言葉が漏れた

戸惑うのも無理はない
歳の差を考慮しているのだろう、なんせ二人の歳の差は10歳以上も離れているのだから



「俺、なんかで…」

『理一さん、だからですよ』



だが理一の想いとは裏腹に、彼女は照れつつも満面の笑みを浮かべた

何処か栄を沸騰とさせる笑みに、彼はつい肩を落とす



「…全く…こりゃ大変」



おどけた口調と照れた笑みを浮かべる理一に、凪は満足したのか

フルフェイスのメットを手に取る



『じゃ、また』



何処かに散歩に出掛ける様な、そんな台詞を残すと彼女は愛車で陣内家を後にした






ある夏の

四日間の戦争の

幕が今降りた






―夏鈴音 完―



[モドル]


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