モニターのワールドクロックは、刻々と時を刻む
それに凪は目を見開く
『待て!まだだっ!』
彼女の雄叫びに、皆がその動きを止める
太助が目を見開いて、モニターを凝縮した
「カウントダウンが終わってない!」
「えぇっ!?」
歓喜な空気が一転、室内に緊張の色が立ち込める
『佐久間君!そっちのワールドクロックは止まってるか!?』
自身のPCに向かい、解体作業に再び戻りながら、彼女は佐久間に問い掛けた
≪はい!世界中のワールドクロックは全部止まってます!世界の核施設の画像も無くなって…ってあれ?≫
佐久間が動いているワールドクロックの、何かに気付く
「まだ一つ残って…」
その画像を拡大していくと、見慣れた家屋が見えた
画像をより更に、拡大してみると
…何処かで見覚えのある柴犬が、空に向かって吠えている
全員が真横の中庭のハヤテに、視線を向けた
……
…………
………………
……………………
「えぇっ!?」
その画像の裏から、奪われた健二のアバターが顔を出す
「此処に【あらわし】を落とし気!?」
「それ以外の何がある!」
「ざけんな!なんのつもりだゴルァー!!」
侘助と凪の元に直美が駆け寄る
「まだ解体終わらないの!?」
「今やってるっ!」
『解体作業は、んな簡単じゃねぇんだよっ!』
二人のキーを叩く速度は、更に上がった
≪10分を切った!≫
「もう任意のコース変更は無理だ」
理一が冷静にかつ、落ち着いて語る
それに克彦が続いた
「冷静に、まずは退避。近所の人達にも大至急知らせて!どんな被害が出るか分からん、行くぞ!」
彼の号令で、皆一斉に動き出す
画面上では鍵を握った、健二のアバター
いや…ラブマシーンが、嫌な笑みを浮かべていた
それを悔しそうに見る夏希
「…姉さん…」
健二は騒動の中、凪の側へとやってきた
その手には筆記用具が握られている
彼の瞳を見た彼女は、力強く頷いた
『…やってみろ』
「うん!」
健二は頷くとモニターに向かった
夏希の側を通り過ぎた彼は、キーボードの前に陣取ってキーを叩く
「佐久間。管理塔にヤツのログは残ってる?」
≪お、おぅ!任せとけ!≫
そんな健二に、退避しようとしていた佳主馬の足が止まった
「まだ何かやる気?任意の変更は出来ないって…」
「理一さん、姉さん!
【あらわし】はGPS誘導だって言いましたよね!?」
「あ、あぁ…」
中庭から戸惑う様に理一は返答を返す
『間違いねぇよ』
凪は侘助と共に、解体作業を進めながら答える
「昨日のヤツみたいにGPS制御システムに偽の補正情報を送ればっ!」
管理塔画面には、緑色で足跡のマークがどこかしこに残っていた
≪…これだ!足跡くっきり!≫
健二の叩き出した発案に、理一も佳主馬も目を見開く
「位置情報に誤差が生じて…」
「少しでもコースが変わるかも…」
「でも上手くいく確証が無いんで、先に退避を」
「…健二くん…」
必死にキーを叩く健二に、夏希は目頭が熱くなる
「早く!アンタ達も!早くっ!」
中庭から万理子が必死に叫ぶ
次第に夏希の瞳から、絶望の色が消えてく
「まだ負けてないっ!」
力強く叫ぶ彼女に、中庭で退避を続けていた皆は首を傾げる
「え…と、どうなってるんだろう?」
画面と睨めっこする健二
『健二、任せな』
「姉さん!?」
『ちょい待て。解体作業と同時平行だから…』
凪は器用に健二のモニターを、自身のPCとリンクさせる
「器用だよな、お前…」
その腕前は侘助が舌を巻く程
『えと…これがこうなって…これか』
凪の操作で、健二のモニターの画像が変わる
だが一瞬にして、その画面は数字の羅列が現れた
『これは!?』
「な、何で!?」
≪パスワードが変更された!ヤツが邪魔してるんだ!≫
「そ、そんな…」
→
[モドル]