そして凪は視線を侘助から、健二へと向けた



『混乱の原因は、あの大量なアカウントが奪われてる事だ――そこで』

「うん。もっと有効な手段で奪い返すには、どうすれば良いか」

「有効な手段?」



彼女と健二の言葉に、皆が箸を止める

佳主馬はおうむ返す



「奴はゲーム好きだって言ってたよね?」

「えっ?」

「これですよ」



健二が取り出したのは、陣内家で見慣れている花札

再び凪が口を開く



『AIのアルコリズムを揺るがす有効な手段――それは人の"勝負運"』



小磯姉弟は互いに視線を交わすと、力強く頷いた



「『これに賭けます」』




息ピッタリにハモる二人の言葉に、笑みが波紋の様に広がっていく



「【こいこい】で一発逆転を狙うのね!ナイスアイディア!」

「しかしハイリターンだが、リスクもでかい」



理香が歓喜の声を上げるも、理一が冷静な判断力を見せる



「それが何よ!?ウチらは陣内家の人間よ!」

「花札とはウチらしいじゃないか」



勢いまく理香に、侘助も賛成の意を示す



「夏希先輩、お願いします」

「え?」

「先輩がやるんです」



キッパリと言い切る健二に、夏希は目を瞬かせた



「ああ…そうね、夏希だわ」

「夏希ね」

「なんで!?ムリムリムリ!」



彼の指名に誰も文句は言わず、逆に頷いて肯定する

彼女は勢い良く首を横に振って、否定を示す



「よくオヤツを賭けては、根こそぎ奪い取ってったろ?
覚えてるぞ

「や…やだ、ちっちゃい頃の話でしょ!」



笑いを抑えながら翔太が言うと、夏希の頬が赤く染まる



「何度おめぇに小遣い持っていかれたことか」

「やだ父さんお金賭けてたの!?」

「や…ちょっ…万助おじさん…それ秘密…っ」



ニヤニヤしながら万助が発言すると、隣から直美の突っ込みが入った



「――ま。ばあちゃんと俺には、勝てた事ないけどな」

「だったらおじさんが…っ」



グラスを手に、侘助は口を緩ませながら語る

すると夏希はむくれた様に声を荒げた



「バーカ、誰が解体作業すんだよ。凪がいたってギリギリなのによ」

「…お姉ちゃ〜ん!」



助けて、と言わんばかりに夏希は凪を見るが…彼女は苦笑いを浮かべるだけ



『…済まん、夏希。私も賛成…』

「えぇ〜!?」

「先輩に勝って欲しいんです」

「…健二くん…」



凜とした力強い表情の健二に、夏希は目を見開く



『安心しな、夏希!アンタは一人じゃないよ!』



穏やかに笑んだ彼女は、周囲を見やる

皆頷きながら、笑みを漏らす



『だろ?』

「大丈夫よ、あんたなら!」

「そうだぜ!失敗したって、お前一人の責任になんてしないさ。

俺ら全員でひとつだからな!」



彼らの言葉に、夏希の目頭が熱くなる

そして――彼女は立ち上がった



「みんなの命 預かります!」


「…でもさ…どうやってアイツおびき出すの?」



ふと直美が、気付いた事を口にする

すると一瞬で部屋が静まり返った



『あぁ、簡単。アカウントを餌にすりゃ良い』

「…っても…アンタのアバター奪われたでしょ?」



理香の言葉も最もだ

彼女のアバターは、佳主馬のアバターと共に取り込まれた筈



『んにゃ、私のアバターありますよ。ほら』



そう言って凪は携帯画面を見せる、そこにはオオワシをモチーフにしたアバターが



「…何でっ!?」

『私のアバターは特殊でして』

「…まさか…二重陰か(ダブル・シフト)か!?」



目を見開く侘助に、皆が首を傾げた



『侘助、ご明答。

二重陰(ダブル・シフト)っーのは、特殊なプログラムで二つのアバターを一つにして、切り替え可能にするシステムの事です』

「簡単に言うとな…だが二重陰(ダブル・シフト)のプログラムは複雑過ぎて、実用化してない筈だ」

『してないよ、だからOZで二重陰(ダブル・シフト)使えるのは私だけ。ラブマシーンが奪ってったのは、狼の方って訳』

「……アンタ、どんだけ?」



凪の底知れぬ実力に、皆が呆然となったのは言うまでもない




ワールドクロックのタイムリミットは、刻々と刻む



「残りあふと1時間!」



佐久間も画面を睨みながら、パンとコーヒーで腹ごしらえ







世界の命運を賭けた

最終決戦の

火蓋が切られる





***
夢主のアバター解説、終了

何でこんな事が許されるか、これまた後で分かります



[モドル]


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