託された栄からの手紙
万理子はそれをゆっくりと開封していく
「みんな、顔を上げなさい」
『万理子さん、待った』
彼女の肩に手を置き、凪がそれを制する
『そういうのは、全員で聞いた方が良い。夏希ちゃんを呼んできます』
「姉さん、僕も行く!」
そう言うと彼女は颯爽と夏希の後を追い、健二もそれを追って行った
*****
『夏希ちゃん…』
「夏希先輩…万理子さんが…」
廊下に佇む夏希に、二人は声をかける
二人の表情は、些か曇り気味だ
「…健二君…凪さん…」
振り向いた夏希は、大粒の涙を流していた
「先輩…っ」
『夏希…』
「うまくできたか、わかんない…っ」
携帯端末を抱きしめながら、彼女は俯く
「よく頑張りましたね」
『よくやった、夏希』
落ち込む夏希に、二人は優しく励ました
と同時に、二人は心底強く思う
「『(―――勝ちたい
この戦い、何としても!!)」』
*****
家族へ
まあ まずは落ち着きなさい
人間落ち着きが肝心だよ
葬式は身内だけで
さっさと終わらせて
あとはいつも通り過ごすこと
財産は何も
残してやいないけど
古くからの知り合いの
みなさんがきっと
力になってくれるだろうから
心配はいらない
これからもみんな
しっかりと働いて下さい
商店街が一台の車が急発進した
交通規制なのにも関わらず、その車は逆方向へと走っていく
――それと
それともし侘助が
帰ってきたら――
10年前に出て行ったきり
いつ帰ってくるか
わからないけど
農道を勢い良く走る車が一台
陣内家に向かっていた
もし帰ってくることがあっ
たらきっとお腹をすかせ
ていることだろうから
ウチの畑の野菜やぶどうや
梨を思いきり
食べさせてあげてください
初めてあの子に逢った日の
ことようく覚えてる
耳の形がじいちゃん
そっくりで驚いたもんだ
朝顔畑の中を歩きながら
【今日からウチの子に
なるんだよ】
って言ったらあの子は
何も言わなかったけど
手だけは放さなかった
あの子をウチの子にできる
私の嬉しい気持ちが
伝わったんだろうよ
家族同士
手を放さぬように
人生に負けないように
もし辛い時や
苦しい時があっても
いつもと変わらず
家族みんな揃って
ごはんを食べること
一番いけないのは
お腹がすいてることと
一人でいることだから――
私はあんたたちが
いたおかげで
大変幸せでした
ありがとう じゃあね
眼鏡を外し、全てを読み終えた万理子
皆の瞳には涙が浮かんでいた
不意に凪が縁側へと向かう