「――さて。まだ時間はあるな」



時計の針を確認した万助は、モニターと睨めっこしている佳主馬に視線を移す

凪が先行してフィールドの書き換えを進めた為か、予定より早く準備が済んだのだ



「佳主馬、行くぞ」

「ちょ…師匠!?」



モニター前に座っていた佳主馬は万助に引きずられる様に、部屋を後にした



「なぁ凪、その髪…そのままなのか?」

『は?』



理一が気まずそうに、彼女の髪を指差す

凪の髪は自身で切った為に、切り口がバラバラ



「確かに、見てると痛いよねぇ…」

『…そうかな?』

「…姉さん…」



首を傾げる自身の姉に、健二は脱力する


凪は身なりには疎い

と言うか、興味が薄いのだ



『…このままで良いんじゃない?』

「…健二君、凪さんて…」



彼女の台詞に、太助は表情を引き攣らせる

健二は落胆しながら、頷く



「…姉さんは…身なりとか…余り、その…こだわらない主義なので…」

「いくら何でもそのままは駄目だろ?切り揃える位しよう、な?」

『…は、はぁ…』



真剣に説得する理一に、凪はただ頷くだけ

だが直ぐに首を傾げる



『…誰が切り揃えるんですか?』

「俺だけど?」



答えたのは、あの理一

小磯姉弟が目を丸くしたのは、言うまでもない



「『えー!?」』

「…そんなに驚く事かい?」

「ウチは大家族だろう?
散髪代も馬鹿にならないから、小さい子供達の散髪はウチで済ますんだよ」



2人の驚き様に理一は目を瞬き、太助は豪快に笑いながら説明してくれた



『…そう、言われると納得…』

「凪さん。理一は器用だから、綺麗に切り揃えてくれるよ」

『…はぁ…』



現役自衛官の、意外な得意が発覚



*****



「こんな感じかな?」



中庭に椅子を用意し、散髪用具一式を手にした理一はものの数分で彼女の髪を切り揃えた

その仕上がりは、美容師顔負けな位



『うわ…』

「凄い!上手なんですね、理一さん!」



鏡の中の自分に凪はア然

健二は興奮しながら、理一を見上げる



「学生の頃、何度もやったからね。凪、どうだい?」

『…理一先輩、美容師になれますよ…』

「アハハ…そうか?」



苦笑を浮かべる彼、どうやら自衛官を辞める気はなさそうだ



『理一先輩、ありがとうございました』

「なんの、なんの」



***



所変わって、渡り廊下傍

こちらでは万助と佳主馬が、少林寺の型を試していた



「…師匠…」

「ん?」

「…勝てるかな?」



ポツリと、漏れた佳主馬の呟き

それは年相応の、彼の本音


佳主馬はまだ13歳だ

この大舞台のプレッシャーに、完全に耐えられるものではない



「お前は大人だ。お前の勝負はお前次第だ」

「中学生でも、大人なの?」

「もうすぐ、兄貴になるんだろ?」



ゆっくりと、だが正確に型を流す二人



「なろうと思ってなるんじゃない…しかも妹なんて」



異性の、しかも10以上も歳が離れている家族が出来る

今まで一人っ子として育った佳主馬が、戸惑うのも無理はない



「悪くねぇぞキョウダイってのは。

おやつは半分になるし、喧嘩もしょっちゅうだし、顔見りゃ憎たらしい事ばっかりだけどな。けど、それが良いんだ」

「ふ――ん」



彼の言葉に佳主馬は生返事を返す



「家族が増えるって事は、守るもんが増えるってこった。

幸せな話じゃねぇか」



万助の脳裏に、様々な過去が巡る

陣内家が…誰もが、そうであったように


佳主馬は静かに耳を傾ける



「守るもんの数だけ、人は強くなれるってもんだ。

これぞ、ザ・陣内家の強さの秘訣!」

「秘訣…って、ご先祖様は負け戦ばかりって聞いたけど(ザって…)」

「それを言うな」



当然の様な佳主馬の鋭い突っ込みを、万助はさらりと流す



「不安なら他の連中に聞けば良いだろ?お前の先輩になるんだからな」

「……うん……」




***
夢主の髪がそのままだったので、理一に切らせてみました…忘れてた…




[モドル]


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