「改めて見ると…なんて綺麗な死に顔…」



一方。陣内家女性陣の、万理子・直美・理香・夏希は栄の元を訪れていた



「ホント…」

「夏希。ちゃんとおばあちゃんの姿、焼き付けておくのよ?」

「…おばあちゃん」



それは気落ちしている夏希を励ます為か

それとも、栄の姿を忘れない様に訪れたか



「…健二君さぁ」



夏希の正面に座っていた直美が、ポツリと呟いた



「此処に来た時は何か頼りなくて、尻に敷かれるタイプだなーって思ってたけど…

良い表情(かお)する様になったよね」



彼女の言葉に、夏希は目を瞬かせる



「なーによ。さっきはいじめてた癖に」

「べ、別にいじめてた訳じゃ…あれ?」



ふと直美が栄の枕元を見て、首を傾げる



「ねぇ…あんなの、あった?」

「えっ?」



それは手の平位の紙の包み

首を傾げながら理香が、その包みを手に取った



「…ちょっと重い?」

「…開けてみたら?」



恐る恐る開けてみると、そこには一束の髪が



「ちょ、これ!髪じゃない!」

「何でこんなのが!」

「…待って!」



悲鳴を上げる万理子達だが、夏希がある物を見つけた

彼女が見つけたのは、一枚の紙

それにはこう書かれていた




我、汝忘れる事勿れ。

侍(もののふ)の気高さと誇り
慈しみを兼ね備えた
汝の姿を我は生涯忘れる事勿れ。


我、此処に誓わん。

汝の残した愛しき者達を
汝と交わした盟約を我は守らん。


その誓いと決意の証とし
我の櫛を汝に捧げん。

汝に、幸い有らん事を





それは栄の姿を、生涯忘れないという事

栄が残した愛しき者達と、交わした盟約…約束の事だろう…を守るとの宣言


そしてその誓いと決意の証拠として、彼女に髪を捧げた…と記されてあった



「…これって…もしかして、凪さん?」

「そういやあの子、髪バッサリ切ってたわよね!」

「しかも【けじめ】とか言ってたわ!」



彼女の切り落とされた髪と一通の手紙を、夏希は目を見開きながら見つめる



「…凪さん…おばあちゃんの事忘れない様にって、約束を守るからって…わざわざ自分から髪を切ったの?

あんなに綺麗で長い髪を…」

「信じられないわぁ…」

「…強い、なぁ…凪さん」



直美や理香が呆れた表情を浮かべる中、夏希はボツリと呟いた



「…まるで、おばあちゃんみたい…」

「…やだ、変な事言わないでよ夏希!」

「そうよ!あの子の何処が………似てるわ…あの気の強い所が…」



どうやら思い当たる節があるらしく、皆がそれぞれ考え込む



「……やだ、本当……」

「…ほら、お喋りはそこまで!まだまだやる事は沢山あるのよ!」



万理子は考え込むのを止め、立ち上がった



「夏希も手伝ってね」

「あ……うん」



後ろ髪引かれながら、彼女は栄を振り返る

枕元には、あの懐紙の包みの姿があった



***
【武士】と書いて【もののふ】と読む事も出来ます

今回はあえて【侍】を【もののふ】と読ませました



[モドル]


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