栄の自室を後にした凪

彼女もまた、健二同様に離れの一室に部屋を用意されてた


だがその部屋に彼女の姿はなく、離れから少し歩いた中庭に、凪の姿はあった



『…で、どうよそっち?』

《どーもこーもねぇよっ!
お前の弟のお陰で落ち着きはしたが、アカウントは今だに奪われまくってるよ!》



どうやら誰かと電話している様で

通話口から聞こえる声は、男性のものだった



『…だろうな…どうにかしやがれ、運営側!』

《どうにか出来たら、とっくにしてるっーの!あのAIの事は、お前だって分かってるだろっ!?》

『……まぁな』



そう言うと、彼女は目を伏せる

凪が話している相手は、OZの運営側の人間らしい



『…国内使用不能アカウント人数は、どれ位だ?』

《ざっと300ってトコだな…あのAI、とんでもねぇよ…》



先の速報より、人数が増えている

確実にラブマシーンの被害が、広がっている証拠だ



『…俺も何らかの手を模索するわ』

《わーった。こっちは奴に不用意に近づくなと、警告は流しているが…一応更に強化してみるぜ》

『アクションがあったら連絡しな』

《あいよ。互いに健闘を祈る》

『Good Luck』



溜息を吐き出し、凪は携帯を切る

空を見上げると、満天の星空が輝いていた



『…明日も晴れ、か…』

「流石航空自衛隊、御自慢のエースパイロット。空見ただけで分かるんだな」

『ひっ!』



突然背後から声が掛かり、彼女は小さく悲鳴を上げる

恐る恐る後ろを振り向くと…、申し訳なさそうな表情を浮かべる理一がいた



『…理一先輩。お願いですから、気配消して背後に立たないで下さい。心臓に悪いです…』



目を見開いて胸を押さえる凪に、彼は浅く嘆息する



「修業が足りん」

『アタッ!?』



コツリと小気味よい音を起て、理一は彼女の額をこつく

少し不機嫌そうな表情を浮かべた凪に、彼は苦笑しながら口を開いた



「誰かと話してたみたいだな」

『…ええ、知り合いと…理一先輩』

「ん?」

『…まさか、夏希ちゃんと親戚とは…』



彼女の言葉に、理一は薄く笑んだ



「あぁ、苗字が違うから気付かなったんだろう。彼女の母親は、陣内家から嫁に行ったからな。因みに俺と夏希の母親は従兄妹」

『…現代稀に見る大家族ですよねー』

「俺は夏希と凪が、知り合いと言う事に驚いたよ」



すると彼女は打って変わって、目を輝かせる



『剣道部顧問経由で、知り合ったんですよ。実家に帰る度に手合わせしてたら、いつの間にか懐かれました』

「夏希は一人っ子だからな…健二君の苗字を聞いてもしかして、と思ったが本当に姉弟とは」



彼の台詞を聞き、凪はふと表情を曇らせる



『…っても、義理…なんですけどね…元々捨て子だし…』

「…」



ポツリと呟いた彼女の言葉は、理一の耳にも届いたらしく



「(広間で話していた事はこれか…)」



彼は無言で、彼女の頭を撫でながら心中で毒ついた




『先輩…妙な、胸騒ぎがします…』




俯きながら彼女は、絞り出す様に語る

理一はそれを聞くなり、目を瞬かせた



「…凪もか…」

『理一先輩も、ですか?』

「ああ…何か、例えられない様な胸騒ぎがしてな…それで目が覚めたんだ」



二人は神妙な表情で、顔を見合わせる


現役自衛隊員が揃って、しかも似た様な胸騒ぎを覚えたのだ

当然の如く、互いに不安を隠せない



「…何かの前触れ、か?」



途端に凪は背筋が震え、理一の寝間着の袖を掴む



「……凪?」

『……あ……』



目を見開く理一に対し、彼女は瞬く間に赤面してしまう



『あ、いや…その…』



慌てる凪に、彼はクスリと笑みを漏らす



「大丈夫、きっとこの胸騒ぎは杞憂だ。
――そう、信じよう」

『……はい』



だが彼女の不安はそれだけではなかった

大切な、何かを失う様な大きな不安



『(…何だ、この嫌な予感は…)』



胸騒ぎと不安と共に、凪は床につく




――だがその胸騒ぎと不安が、翌日になって現実になるとは

凪も理一も予想していなかった…



***
夢主と理一、少し絡めてみました…今までまともに絡んでなかった…



[モドル]


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