栄を見る侘助の視線は、何処か柔らかく



「今まで、迷惑かけてゴメンな?挽回しようと思って、頑張ったんだよ」



それは彼が彼女のみに心を許している様で、その光景を全員が静かに見守った



「この家に、胸張って帰ってこれる様にさ――そうだ、ばあちゃん。これ見てよ」



そう言うなり侘助は、栄に携帯端末の画面を見せる

画面には英文がつらつらと並んでいた



「今、米軍から正式はオファーが入ったんだ。
俺の作ったAIの技術情報を、高値で買いたいってさ。凄いだろ、な?」



まるで玩具を与えられた子供の様に、嬉々と侘助は話し続ける



「ジジィが生きてた頃以上の大金が入るんだ!これもばあちゃんのお陰さ。何たってばぁちゃんに貰った金で、独自開発出来たんだから!」



その言葉に栄は、より一層目を見開く

すると彼女は踵を返し、床の間に飾ってあった薙刀を持ち出した



「母さん!?」



栄は薙刀を構えるとそのまま、侘助に振りかぶる

それを見た侘助は目を見開き、携帯端末を落としてしまう



「逃げてっ!」




夏希の悲痛な叫びが響く


だが栄は容赦なく侘助に、薙刀を突き付けた

彼は後退りながら、彼女の刀から逃げるだけ


様々な料理が並んでいた食卓も、ひっくり返ってしまった



「侘助、今ここで死ねっ!」

「っ…!……冷たぇ!」



栄が薙刀を振りかざそうとした瞬間、侘助はびしょ濡れに



『馬鹿みてぇ』



それは彼の背後から、凪が酒をぶちまけたのだ



「ね、姉さんっ!?」



凪は二人の間に入ると、冷たい視線で侘助を見下ろす



アンタ、餓鬼かよ



その声色は彼女のものとは、思えない程低く

侘助は背筋が凍る感覚を覚えた



『…端から見りゃ、アンタ…
欲しい物が手に入らなくて駄々こねてる餓鬼だ

「……んだと」


侘助に青筋が浮き出る

凪は栄に薙刀を下ろさせ、彼と対峙した



『てめぇは餓鬼ってんだよ。自分の事しか見ねぇで、周りを全然見ようとはしねぇ。だから気付いてねぇんだ。
てめぇがどんだけ幸せな環境にあるか、分かっちゃいねぇ』

「他人のお前に、俺の何が分かる!?」

『分かる訳ねぇだろ、他人なんだから。てかてめぇの事なんざ、知ったこっちゃねぇし、他人様の事情に首突っ込む義理もねぇ。

…けどな…そんなんで、栄さんが喜ぶと思うと思ってんのか』

「てめっ!」



凪と侘助の言い争うに、ア然とする一同

だが一人、健二だけが辛辣な表情を浮かべていた



『腑抜けたその眼、いい加減醒ませ…てめぇには帰って来ても、受け入れてくれる人達が居るだろ』

「っ!」



侘助は息を呑んだ

何故なら彼は見たのだ…彼女の瞳に宿る、暗い闇を


そして栄を視界に入れると、踵を返した



「…帰ってくるんじゃ、なかった」



そう呟くと彼は縁側へ向かう



「おじさん!?」

「夏希、およし!」



侘助を追う夏希を、栄は止める

凪は息を吸うと、陣内家を後にする侘助に叫んだ



『侘助っ!後で後悔すんのはてめぇだからな!』




彼女の視線は今だ、冷たいまま



「いいかい、お前達!
身内が仕出かした間違いは、皆でカタを付けるよ!」




皆が呆然とする中、栄は毅然と声をかけた

そして踵を再び返した



「……姉さん」

『……健二』



その中で小磯姉弟は

部屋の隅に移動し、気付かれない様に小声で会話を交わしていた



「…大丈夫、なの?」

『…まぁ…何とか、な。侘助見てたら昔の私とカブッてな…』

「…姉さん…」

『…大丈夫、だよ…』



その光景を理一が聞いていた…とは、二人は露知らず

会話を聞いた彼は、表情を顰めていた



***
長文再び、今度は夢主…



[モドル]


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