―…其の者、艶やかな闇の髪を靡かせ、意思強き翡翠の瞳を持ちし

蒼き稲妻と炎を従え、この地に蔓延る魔を払拭せん



「どうした?」

「ふふ、兄さん。面白い"夢"を見たの」

「…また、か」



金髪の少女は、伏せながらクスクスと笑みを漏らす。然れどその顔色は優れたものではなく

同じ色の髪を持ち、少女から兄と呼ばれた青年はため息を漏らす

少女は"夢"を見る、外れる事ない現実に起きる"夢"を。それは時に捕らわれず、また本人の意思でどうにか出来るものでもなかった



「以前見た兄さんの子孫の夢、覚えてる?彼が出てきたわ」

「]世、か…ならば時は遥か未来になるな。で、今度はどんな夢を見たんだい?」

「私の子孫の夢」



少女は嬉々として話すが、青年は目を見開く。それもその筈、彼女は生まれつき病弱で…今も床から起きる事は叶わないのだ

それなのに自身の子孫だと言われたら、兄である青年が驚くのも当然だろう



「おやおや、ビックリだ」

「私もよ?でも確かに"あの子"は、私の子孫…だってこの指輪をしていたもの」



自身の右手に付いている指輪を、少女は穏やかに愛おしそうに撫でる

その指輪は、青年が付けてる指輪と酷似しており。揃いのものと簡易に推測出来た

少女は尚も続ける



「正直、私のこれからはまだ分からないわ。私の未来は私自身"見れ"ないもの…」

「…………」

「でも、でもね?"あの子"を"見て"いたら、このままじゃダメなんだって思ったわ。おかしいわね、子孫に勇気付けられるなんて」



苦笑を浮かべながら、少女は表情を曇らせた。どんなに勇気付けられたとしても、不安要素が消えた訳ではない

兄はそんな妹の頭を、優しく撫でた



「どんな、子だったんだい?」

「…そうね…夜空の様な髪で、翡翠の様な瞳を持った女の子よ」

「女の子、か…夜空の様な髪をしているなら、恐らく日系の血が混ざったんだろう」



すると突然、少女はクスクスと笑みを漏らす。これに兄は首を傾げるばかり



「どうしたんだい?」

「ううん…"その子"ね、確かに女の子なんだけど…男の人顔負けの戦闘能力を持ってるみたい」

「ほぉ…」



兄は驚嘆の息をつく
まさか妹の子孫が、しかも女性ながら戦闘能力に長けているとは予想外だったのだろう



「"夢"の一部では、刺客…かしら?100人位を相手に、剣一本で戦って…」

「…………は?」

「でも余裕そうだったわ、怪我もしてなかったし」

「………す、凄い子だな」



流石の兄も、そこまで聞くと口元が強張る。戦闘能力に長ける所の話ではない、もはや戦闘能力に特化したと言っても過言ではない



「でも、やっぱり私達は兄妹なんだ…って染々思ったわ」

「突然どうした?」

「"その子"、兄さんと同じ炎を使うの。スタイルも同じなのよ、ビックリしちゃった」

「……死ぬ気の炎が使えるのか…しかしまさか私と同じとは、]世と同じ世代というのも何かしら理由がありそうだな」



彼等が使う"炎"、それは個人差がある。同じスタイルは余り前例がない

それは"夢"に現れていた事であり、事前に知っていた兄も驚きを隠せないでいた



「似ていたわ、とても。強い意思を持つ瞳が、兄さんに…」

「…そんな事はない、お前の子孫だろう?未来は、希望に満ちているんだな…」

「不安要素はあるけど、大丈夫よ。兄さんの子孫…]世と、私の子孫がいるもの」



少女はそこで言葉を切り、改めて口を開く



「―其の者、艶やかな闇の髪を靡かせ、意思強き翡翠の瞳を持ちし

蒼き稲妻と炎を従え、この地に蔓延る魔を払拭せん―

……これが、私が見た"夢"よ」

「……そうか」



二人は部屋の小窓から見える、青空を見上げた。真っ青な空は、何処かに繋がっている様な錯覚を二人に覚えさせる



「未来を、彼等に託そう」



過去語り

そして未来に繋がる

…貴方達に幸あらん事を

12.10.29.




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