―…桜が舞う

―…再び、この地に戻れると…思っていなかった







眼前で繰り広げられる、宴に俺はそっと息を吐く

俺が、"こちら"に戻ってきたのは…丁度魔王を討伐する折

武田のおっさんと軍神さんが、織田の刃に倒れたと聞いた時は流石に肝が冷えた



俺は政兄と合流した後、小太郎の助力の元、各武将達に協力を仰いだ…魔王を、織田信長を倒さんが為に

……それが俺にとって、最悪の結果だという事でも



『…しかし騒ぎ過ぎだろ』



魔王が倒れた後
怪我も癒えぬまま、兄の号令の元に宴が開かれた

………全く、怪我が悪化しても知らんぞ



『ふぅ』



"こちら"に戻って来て以来、俺はどうしても睡眠を取る事が出来なかった

否、取れないのだ

寝れば必ず、"あの時"を夢見てしまうから…まるで悪夢の様に繰り返して見るので、ここ最近熟睡してねぇ



「隊長、どしたの?」



ひょっこりと酒を持った佐助が現れた。嗚呼、あの酒は追加の酒だろう

連中、浴びる様に酒を呑んでっからな



『佐助、まだ俺を隊長と呼ぶか?ここは新撰組じゃねぇぞ』

「いやぁ、何かつい…」

『オイコラ』



どうやら"向こう"と"こちら"では、流れる時間の速さが違うらしく

俺より先に戻った佐助と小太郎は、他の連中より少し老け…余分な時間を食ってしまった様だ



「で?どしたの?」

『いや…懐かしいな、とな』

「……あぁ」



"向こう"にいた時も、こんな風に騒いだからな

つい思い出に浸っちまった…



「…隊長、大丈夫?前より痩せたよ?」

『……どうしても、寝れなくてな』



自虐的に笑みながら、俺は懐からあるものを取り出す



「…隊長、それ…」

『いつの間にか、俺の懐に入ってやがった…』



それは何時か、トシが買ってくれた簪。首元には銀色に光るringがぶら下がってる

……まさか、持ってこれるとは思わなかった



「……隊長…」

『…吹っ切らなきゃいけねぇって、頭では分かっているんだが…な』



養子とはいえ、俺は伊達の姫

伊達の為に嫁に行く…戦国に生まれた女の、宿命だ


だからこそ、トシの事を吹っ切らなければならないというのに……

俺は吹っ切る所か、未だ未練がましくトシを想い続けている



『アイツには一生愛するって言ったが…このご時世だ、そうも往くまい』

「…それは…」



不意に佐助の表情が曇る

俺達の事を知ってるからこそ、心を痛めてくれている…有難い事だ



『佐助、お前が気にする事ない。お前もな、小太郎』



黒い羽と共に、小太郎が佐助の隣に舞い降りる

何時から聞いてたんだか…



「…主…」

『大丈夫だか………ら……』

「隊長?」



突然俺の視界に、不思議なものが入った

つい目を見開いて、言葉が詰まる



おかしい、可笑しい

なぜ、何故、何故?


何故貴方方が、此処に?



「あ!た、隊長!?」

「……主?」



二人の声など、耳に届かず

俺の意識は、中庭の一角に向けられていた



『……何故?』



どうして、貴方方が?

ここは、私が住まう世界


貴方方の住まう世界ではない



「what?##name_3##?」

「##name_3##殿?」



皆の声が遠くに聞こえる

驚愕で声が出ないとは、この事か


ふらり、ふらりと

素足で中庭に降り立つ


中庭の一角に見事に咲く、桜の大樹

その樹下に、俺の見覚えのある人達の姿があった



――…やぁ!##name_3##君!久しぶりだな!

――…ご無沙汰しています、##name_3##さん。急な来訪、失礼します



その聞き慣れた声音と、穏やかな笑み

思わず俺は息を呑む、それは佐助と小太郎も同じで



「…え?ウッそ…!?」

「……まぼ、ろし?」



だが"彼等"は、そこにいる……何故か半透明だが


『…近藤、さん?山南、さん?』



mae tugi