そこに場違いな声が、室内に響く
「…あんた、暢気だな。欠伸なんかして」
軽く睨む様に藤堂は、声の主に声をかけた
そこには戸口に軽く寄り掛かって、半目で幹部達を見やる青年の姿
そして表情に浮かんでいるのは、何ともつまらなそうなもの
『ん?いや何、情けないなと』
「情けない?何が?」
彼の言葉に沖田が、食いついてきた…彼を鋭い視線で睨み付けながら
『大の男共が寄って掛かり、年端もない子を脅すとは。いやはや、こんな情けない話は初めてですよ』
呆れ返った口調の青年に、山南が口を開く
その表情には、僅かに怒りの色が見え隠れしている
「聞き捨てなりませんね」
『昨夜の一件。あんたらにとって、内密に処理するべき事だった』
不意に、青年の瞳の光の鋭さが増す
彼の鋭い眼光に、幹部達はつい息を呑む
『目撃された途端にこうか?あんたらの頭は飾りもんか?』
「んだとっ!!」
「落ち着け、新八!」
売り言葉に買い言葉
永倉が頭に血を上らせるも、原田に嗜められた
『俺らだって好き好んで、巻き込まれた訳じゃない。あんたらの都合に振り回されるのはゴメンだね』
青年は鋭い視線を、土方に移す
その視線を土方は、真っ向から受け止める
『…副長さん、あんたの意見が聞きてぇ。あんたはどうする?』
深く溜息を吐いた土方は、同じ位の鋭い視線を彼に向けた
二人の激しく、静かな睨み合いに、室内の空気が震えている様な錯覚さえ覚える
「…そういうお前は?」
『この状況で、冷静な判断が出来るとは思えない。双方頭を冷やし、それから冷静に話し合うのが、無難と考える』
凜とした雰囲気を纏い、青年は土方へ躊躇無く答える
青年の言葉に土方は浅く頷くと、近藤に視線を向けた
「…お前の考えも一理ある。近藤さん、こいつらを一旦部屋に戻して良いか?」
『俺達がこの部屋にいると、余計な情報が与えられて不利になる。俺もその意見に賛成です』
土方に青年は頷きながら続く
近藤はうむと、首を縦に降った
「そうだな、そうした方がいいな」
『んじゃ、戻ろうか?』
青年の言葉に、千鶴はきょとんと呆ける
『部屋までなら、覚えるから安心しな』
「は、はい」
彼に促され、千鶴は何故か先に廊下に出され
青年は途中で立ち止まると、幹部達を振り返る
『どうやら…迂闊な奴らがいるみたいですね。注意を促しといて下さい』
そう言い切ると、青年は部屋を後にした
残された幹部達は、一斉に三人組を見る
三人は罰が悪い様に、表情を歪ませた
***
一方、部屋に戻った二人
千鶴は戻るなり、座り込んで思考に浸っていた
不意に考えるのを止め、彼女は青年に振り返る
「あの…私。事情を話してみようと思うんです」
『だな…本来の性別も言ってねぇし』
千鶴は驚きを隠せなかったのか、目を見開く
『まぁ、見る奴が見れば分かるよ』
苦笑を浮かべ、青年は続ける
『その判断は間違ってはねぇな、寧ろ活路を見出だす』
「ですよね!」
気持ちが高まり、やる気を出した千鶴は声を張り上げる
すると直ぐに斎藤と永倉、原田が姿を見せた
最初斎藤に出鼻をくじかれるも、青年の言葉に励まされ、言葉を必死に紡ぐ
「寄る辺も無しに、女一人で人探しか」
「今の京は治安が良くねぇし、人探しは楽じゃねぇよな―って女っ!?」
『(…おいおい、本気で気付いてなかったんかい…)』
驚きからか永倉は目をこれ程か、と見開く
斎藤と原田は気付いていた模様
気付いて無かった永倉に、青年は内心で心底呆れる
『とりあえず…一旦全員集まった方が宜しいかと』
青年の意見に、斎藤も肯定を見せた
「そうだな、土方さん達の所に行こう。事情の説明は、その時に改めて頼む」
「あ、はい…」
***
そして再び幹部招集
改めて。千鶴が女と、告げられた
「しかし、女の子を縄で一晩縛っておくとは…悪い事をしたね」
井上が申し訳なさそうに、頭を下げる
千鶴の性別を知った幹部の反応は、実に様々だ
実は分かっていた者、薄々感づいていた者、全く気付かなかった者、等々
敢えて此処は、名前は伏せておこう
「いえ、大丈夫ですよ。縄なら彼が…解いて下さいましたし」
mae tugi
←