京の一角
西本願寺から、南に位置する不動堂村
「わあ…!」
その地に建設された新しい屯所を見て、千鶴は感嘆の声を上げた
それは軽く外から眺めても、大屋敷と分かる位で
『こりゃ大したもんだ。大名屋敷と比較しても、見劣りしねぇぞ』
広さは隊士全員入っても余裕がありそうな位で、物見櫓(やぐら)や、馬屋まであった
「本当…凄いですね…ここが新しい屯所なんですか?」
子供の様に目を輝かせている近藤に、千鶴は問い掛ける
すると近藤は嬉々とした表情で、口を開く
「ああ、その通りだ。これからはここが我ら新選組の本拠となる」
「広さも申し分ない。余計な奴の目もねえし、これからは色々と楽になるな」
『…確かに、なるなぁ』
常に厳しい顔の土方も、今日は穏やかで機嫌が良い
彼の台詞に賛同した青葉は遠い目を浮かべた
目を輝かせている近藤は、不意に千鶴と青葉に振り向く
「…む。そうだ!雪村君と青葉君はまだ屯所の中を見てないのだったな?」
「あ、はい。そうです」
『…まぁ…』
「そうかそうか!では折角だから俺が屯所を案内しよう!」
「え?でもそんな、わざわざ私達の為に局長自らが…」
いきなりの近藤の誘いに、千鶴はわたわたと戸惑う
そんな二人に土方と青葉は、苦笑しつつ顔を見合わせて口を開く
「大人しく案内して貰っておけ。一城…って言うには少々足りねぇが、一国一城の主ってのは、男の夢だからな」
『近藤さんも誰かに見せたくて、仕方ないんだよ』
「…あれ、姉さんは?」
首を傾げる千鶴に、青葉は視線を逸らす
『……あぁ』
そんな彼女の反応に、三人は首を傾げた…その時だ
「隊長、どこ行くのかなぁ?これから医療隊と、監察方の片付けだよぉ?」
不意に聞き慣れた、軽快な声音
いつの間にか佐助が、青葉の背後に降り立っていた
その瞳は全く笑ってない
『…と、言う訳だから。二人で行ってらっさい』
流石、オカンと言うべきだろうか。彼女の性格を把握しきっている
青葉が佐助に引きずられて行くのを、三人はただ見守り
その後
千鶴は近藤の案内の元、屯所を見て回る事に
***
「ここが、私の部屋…」
近藤が最初に案内したのは、千鶴の部屋
陽射しも穏やかな、暖かい一室だった
千鶴を考慮してか、襖の意匠は少し華やかだ
「どうだろう。気に入って貰えただろうか?」
「勿論です!」
笑みを絶やさない近藤に、千鶴は大きく頷く
「でも、良いんですか?新選組に居候している身分な私が、こんなに広い部屋を使って」
「いやいや、気にする事ないぞ。今回の屯所は平隊士も余裕を持って生活出来る広さになってる」
そう言った近藤の表情が、急に曇る
「…それに、御陵衛士が抜けて、部屋に空きがあるからな…」
「あ…」
少し寂しげな表情を近藤は浮かべる
きっと平助や斎藤の事が、脳裏を過ぎったのだろう
「ともかく広さについては心配はない。西本願寺も広かったが、あそこは我々に友好的とは言えなかったからなぁ」
西本願寺移転は、ほぼ強制と言っても過言ではない
ただ説得した青葉は、今だにどう丸め込んだか口を割らないが
「先方にも皆にも、心苦しい思いをさせた。それに比べればここは、気兼ねなく暮らせると言うものだ」
「そうですね」
今までの屯所は八木邸・西本願寺共に、間借りする立場だった
近藤にとって、今回の一件は感慨も一入だろう
千鶴の部屋から道場に案内しようと向かう途中、近藤は寄り道をした
その先は――
「ここ、沖田さんの部屋…ですか?」
mae tugi
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