■※

土方に応える様に、風間もまた刀を構えた



『(…頼む、もう少しだけ)』



この勝負は例え命のやり取りをせずとも、一瞬で決まる


双方の実力は互角

命運を分けるのは幸運か、想いの強さか


間合いを保ったまま動かない双方の間を、再び強い春風が吹き抜ける

桜の花弁が、天高く舞い上げられた時


――…それは起きた



「……な、に?」

「風間?」



風間が急に、驚愕の表情を浮かべて刀を下ろしたのだ

突然の事に土方も戸惑いを隠せない


目を見開き、口を開き、身体を震えさせ

その表情はまるで信じられないものを、見た様なもの


彼の視線は土方に向いていなかった



「なぜ…?」

「どうしたんだよ?…っ!!」



訳が分からず、土方は風間の視線を追う

そしてその先にあった光景に、息を呑んだ



桜吹雪の中

##name_3##の身体が、透け始めていたのだ



俯いていた彼女が、ゆっくりと顔を上げる

その表情は、今にも涙が零れ落ちそうな…悲しげなもの



『悪ぃ、トシ。TIME UP…だ…』



その声音は涙声で、震えていた



「なんで、きえて…」

『来るなっ!』



土方が歩み寄ろうとするが

##name_1##の悲鳴に似た叫びに、足を止めた



『…巻き込まれるよ、時と空の狭間に…』

「巫山戯るなっ!!!」



腹の底から叫んだ土方は、彼女の元へと駆けるが

だがそれを風間が羽交い締めで、彼の動きを何とか止める



「待て!落ち着け!!貴様、死にたいのかっ!?」

「側にいるって、いってたじゃねぇか!夫婦になるって、やくそくしたじゃねぇかっ!!」

「っ!?」



土方の魂の叫びに、彼は表情を歪めた


この二人が恋仲と言う事は、風間も知っていたが…

まさか夫婦の約束までしていたとは、予想外だったのだろう


憂いの表情を浮かべていた##name_1##は、深い息を吐き出す



『……千景っ!!』



その声音は独眼竜と謳われた、凛としたもので

つい二人は、その動きを止める



『一年だ。一年以内に鬼一族を纏め上げろ』

「無理を言うなっ!!」



彼女が言い出した無理難題に、つい風間は叫ぶ


それもそうだろう

鬼一族は日本各地に散らばっており、一年以内に纏める等、至難の技である



『お千達がいるだろ?どうにかしろ、お前は頭領だろうが』

「…んな、無茶苦茶な…」



流石の無理難題は、土方をも呆れさせた

だがそんな二人を余所に、彼女は不敵な笑みを浮かべる



『お前になら出来る。いや…変わった今のお前だからこそ、だ』

「………」



彼女の言葉を聞いた風間は、軽く目を瞬かせた



『…千景、出来るよな?』

「っ…あぁ!やってやる!!」



二人のやり取りを聞いていた土方は、ふと思う



「(売り言葉に買い言葉の様な気がしてならねぇ…)」



全くもってその通り


風間から土方へと、##name_1##は視線を移す

その表情はとても優しく、愛しそうで、悲しげな…



『…とし』

「っ!」



鈴の音の様に響く声音

彼女の身体は次第に透明になっていき、既に身体の半分は消えていた



『やくそく…守れなくて、ごめんね。トシの…お嫁さんに、なりたかったなぁ』

「…##name_3##」



一筋の涙が、彼女の頬に伝う

土方は向かおうとするが、それは風間が必死に阻止していた


##name_1##の身体が消えていく

既に下半身の姿は無く、今や上半身が何とか見えると言った所だ



『住む世界は違えど、私は…一生トシだけを愛してるから…』

「行くなっ!!」




風間に止められながら、土方は必死に手を伸ばす

だがそれも虚しく、彼女の身体は消えていく

既にその身体は、殆んど消えてしまっていた




『バイバイ』






その言葉と共に、##name_3##の姿は消えた

まるで霧の様に…まるで始めから、そこに存在しなかった様に


彼女の姿が無くなると同時に、土方を拘束していた風間の腕が解かれる

土方は##name_1##が消えた場所を呆然と眺め、膝を着く



一つ、また一つ

彼の瞳から、悲しみの涙が零れる



「…##name_3##…?う、あ、あ、あ…
うわわあああああぁぁぁぁぁ!!!



桜の花弁が吹き抜ける中

土方の悲しみの雄叫びだけが、響き渡った



風と共に 完


………………………………………
前回から怒涛の展開

風間キャラ変え過ぎたか…


11.10.20.


mae tugi