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二人の間にいる、額に布を宛てがい、筋肉質で見た目兄貴的な

――永倉新八



井上は二人へ部屋まで来る間に、幹部の名前と特徴を教えてくれたのだ



『餓鬼に、ガキって言われたのは初めてだな…』

「煩いな、おじさん二人は黙ってなよ。あんたも!」



三人は言い合いつつも、その視線は二人に向いている

好奇心と警戒心が含まれた視線を


思わず俯いた千鶴に、穏やかな言葉が降って来た



「口さがない方ばかりで、申し訳ありません。あまり怖がらないで下さいね」



物静かで温厚そうな男性だった…一見は、だが



『俺は大丈夫です…けど』



彼の視線は、千鶴に向かう

気遣うその視線は実に柔らかい



「…何言ってんだ、一番怖いのはあんただろ。山南さん」



土方は薄く笑みを浮かべ、からかう様な口調で言うと

その言葉に、皆が大きく頷く



『(…うわ…黒、か?)』

「おや、心外ですね。皆さんは兎も角、鬼の副長まで何を仰るんですか?」

『(やっぱ腹黒、黒属性か…)』



青年は呆れた様に、内心毒ついた

その表情は、ほんの僅かに引き攣っている



「トシと山南君は、相変わらず仲が良いなぁ」



彼の言葉に千鶴と青年は、顔を見合わせて小声で呟く



『(…なぁ…これが、仲が良いと見えるか?)』

「(…私からは…何とも…)」

「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺が新選組局長、近藤 勇だ。それから――」



大らかで気立てが良さそうな雰囲気…と同時に。人が良すぎる面も垣間見た、その人物こそ

新撰組総大将、近藤 勇その人である


そんな総大将に、青年はア然。そして目を細め、土方へと視線を向けた



『…副長さん、良いんですか?』



ついつい青年は、土方へ問い掛け。土方は重い溜息を漏らす



「…近藤さん。何色々教えようとしてんだ、あんたは…」

「…む?まずいのか?」

『(天然か?)本題…入りましょうよ…』



近藤の天然さに内心呆れつつ、青年は再度促す



「おお、すまん!さて、本題に入ろう。まずは改めて、昨晩の話を聞かせてくれるか」



近藤の問いに、斎藤が静かに答えた



「昨晩、京の都を巡回中、浮浪浪士と遭遇。相手が刀を抜いた為、斬り合いとなりました」



彼の報告に、青年は僅かに眉を潜める



『(京?…ここは京の都、なのか?)』

「隊士らは浪士を無力化しましたが。その折、彼らが【失敗】した様子を目撃されてます」



そう言い切った斎藤は、視線を二人に投げる

彼の視線に、千鶴は身を僅かに震わせた



「私、何も見ていません」



言い切った千鶴に対し、青年は無言を通している

すると永倉が、首を傾げながら口を開く



「あれ?総司の話では、お前らが隊士共を助けてくれたって話だが…」

「ち、違いますっ!」

『(げっ!?…不味いっ!!)』



叫んで否定した千鶴に、青年は内心で舌打ちする

だが時、既に遅し



「私はその浪士達から逃げてて…新選組の人達がそこに来て…だから助けて貰った様なものです」

「じゃ。隊士共が浪士達を斬り殺してる場面は、しっかり見ちゃってる訳だな?」



否定の言葉が千鶴から、出てこない

彼らの誘導尋問に、まんまと引っ掛かってしまったのだ



「つまり…最初から最後まで、一部始終を見てたって事か…」



原田が曖昧に言葉を濁す

周囲の空気が一段と重くなる中、青年は鋭い視線で傍観していた



「私、誰にも言いませんからっ!」



千鶴は必死になるものの

幹部達から紡がれる言葉は、重いものばかりだった



『ふぁぁ…』

mae tugi



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