百七※

――…五月十一日

弁天台場が集中砲火を浴びていると、土方隊に知らせが届く

遂に新政府軍の攻撃が、開始されたのだ


土方と##name_1##は台場の戦況逼迫を聞き、援軍を送る事を即断



「俺は弁天台場の援護に向かう…お前も当然来るよな?」

『All right.たりめぇだ!!』



馬が二頭、地を駆ける

一頭は見事な白馬、もう一頭は黒が混じる茶毛色の軍馬


街中を駆け抜け、弁天台場を目指していた…その最中


それは突然だった

――…一発の銃声が、鳴り響く


それと同時な、土方の身体が揺れ崩れた



『トシッ!?…そこかっ!!』



白馬の綱を引きながら、##name_1##は草むらへと苦無を投げる

すると小さく悲鳴が上がった



『トシッ!』



ひらりと華麗に白馬から降りた##name_1##は、慌てて土方へと駆け寄る

大地が鮮血で、真っ赤に染まっていた


傷口を見るなり、彼女は表情を顰める



『(出血が酷ぇ…昼間は只でさえ、治癒が遅いってのにっ!!)』



咄嗟に常日頃持ち歩く、医療袋から止血布を取り出す


即死かとも思われる深手

だが羅刹の肉体は、ぎりぎりで命を取り留めていた



『トシ!テメェ起きやがれ!!』

「…##name_1##?」



大声で叫びながら##name_1##は、手際良く手当てを施す

その声に薄っすらと、瞳を開いた



「……け、がは?」

『ある訳ねぇだろ。逆に潰してやったよ』

「……こぇぇ、な…」



激痛に苛まれているのか、土方は表情が歪む

##name_1##が施す手当ても恐らく、気休め程度にかならないだろう



『狙撃手を潰したと言えど、追っ手が来ない訳じゃない。ここから離れんぞ』

「あ、あぁ…」



確かに##name_1##の手腕で、狙撃手は絶命している

だが追っ手が追撃してこない訳もない


##name_1##は土方の肩を担ぎ、何とか立たせる



『お前は先に五稜郭に戻り、これを届けてくれ』



甲高い馬の鳴き声が響く

彼女が白馬に渡したのは、土方の血が着いた服

ただし"負傷"、という血文字を記して


こうする事で五稜郭に残した医療隊に伝えられ、医療体制が整えられるのだ



「……大丈夫、なのか?」

『この子は賢いよ。行けっ!』



##name_1##の声に応える様に、白馬は再び甲高く鳴き声を上げ、五稜郭へと駆け抜けて行った

負傷した土方を支えながら、五稜郭への帰路を辿る



『(……"持って"くれよ)』



彼女が内心で呟いた言葉の真意は、どこにあるかは分からない


しかし新政府軍の勢力は、既に五稜郭まで迫っていた


ここで二人が五稜郭の真っ正面に向かえば、自ら撃ち殺さるに行く様なもの

##name_1##は敵の手が及んでない、五稜郭の裏手へと回る事にした



『……これは…』



夢か現か

そこには美しくも、優しい風景が広がっていた

淡い桃色の花弁が、風に散らされて空を舞う



『……知らなんだ。裏手に、こんな見事な桜があるとは…』



別世界に迷い込んだかの様な、幻想的な景色

その景色に##name_1##はどこか、既視感を覚える

だがそれも一瞬で



春の香りが包む、この場所で二人は身を休む事にした



『(ちっ!顔色悪ぃな)』

「……お前には、桜が似合うな」

『Ha?』


mae tugi