百陸※

五月十日の、夜更けた頃

土方は不意に、小さく呟きを漏らす



「仕掛けてくるなら、明日だろうな」

『……ああ』



新政府軍は、すぐそこまで迫っている

明日には函館が戦場になるだろう


そして、五稜郭こそが

――…最後の砦



『先に言うがな、敵前逃亡なんかしねぇぞ。んな事するなら、切腹した方がマシだ』



土方の言葉より先に、##name_1##が言葉を紡ぐ

彼女は彼の気遣わしげな眼差しで、既に察していたのだろう



「……俺が言う前に言い切りやがって」

『てめぇが寝惚けた事をほざこうとするからだ』



この戦いの終末は、##name_1##ですら分からない

どんな結末であろうとも、彼女は戦い続ける…土方の隣で



「お前に言わせてばかりじゃ、格好つかねぇな」

『Ha?』



諦めた様に嘆息を漏らした土方は、真剣な瞳で##name_1##を見詰める

だが唇は引き結んだままで、何か躊躇うかの様に黙したまま



『おい、一体何の事だ?』

「俺が、誰よりも守りたいのは…##name_3##、お前だ」



彼の言葉に、彼女は息を呑む



「新撰組を率いる務めさえ終われば、死んでも構わない…そう思っていた」



抱えてきた、抱え続けてきた想いが流るる

それは重く、苦しく



「別に死に急ぐ訳でも、死にたいと思ってる訳でもねぇ。ただ生きる目的が無くなっちまうだけだ」



それは悲しい心の内

彼女に中々言い出せなかった、土方の本音



「道標としての役割さえ果たし終われば、俺が生死に頓着する理由も消えちまう」

『…………』



【新撰組】という偉大な志を背負い、土方は今日まで歩み続けてきた

その重荷が、肩から下ろした時…彼の道は消える

土方は少しだけ、目を伏せて続けた



「だがそれも、お前に再会するまでだ。生きたいと思う、理由が出来たからな」

『理由?』



彼のもたらした言葉に##name_1##は安堵するも、最後の台詞に首を傾げる

静かな微笑みを浮かべ、慈しむかの様な優しい瞳で、土方は##name_1##を見据えた



「お前が…##name_3##が側に居てくれるから、俺は生き続けたいと願っている」

『っ!!』



##name_1##の頬に、一筋の涙が零れる

言葉を紡ごうとするが、上手く言葉にならず


それを見かねた土方は、彼女の身体を抱き寄せる

蜜やかな吐息が、##name_1##の唇を掠め

熱く柔らかな口付けが落とされる



『……んっ』



##name_1##は熱い吐息を漏らしながら、土方の胸元に身を寄せた


土方の手によって、彼女の髪紐が解かれる

艶やかな美しい髪の海が広がり、土方の漆黒の髪と流るる


角度を変えながら交わされる口付けは、まるで互いの想いを伝えるかの様

暫くすると名残惜しむ様に、互いに唇を離す

だが二人の表情には、淡い笑みを浮かんでいた



「……##name_3##。全てが終わったら、夫婦になってくれ」

『……良い、の?』



不安に揺らぐ##name_1##の瞳

だが土方の眼差しは揺るぎなく



「お前じゃなきゃ駄目なんだよ。言っておくが、逃げようとしたって離さねぇからな?覚悟しとけ」



向けられた熱い眼差しに、##name_1##は再び涙を溢す

しかし悲しみの涙ではない、歓喜の涙



『それはこっちの台詞…だよ…』



漸く二人が辿り着いた、終着点

それを誓う様に、二人の影が再び重なった



誓い 完


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書いていて非常に恥ずかしいやら、迷うやら、困った回でした…
兎も角、土方さん無事にプロポーズ出来ました。うん、長かった…


11.10.16.


mae tugi