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茶器を片付けていた##name_1##に、土方は小さく問い掛ける

彼女が地理を完全に把握していないのは、医療隊の仕事に追われている為だ



「……ちょっと来い」

「ちょ、トシっ!?』



土方は##name_1##の腕を掴むと、そのまま部屋から出て行く

向かった先は…五稜郭の外だった


吹く風は凍える様に寒く、景観は純白の雪に覆われている




「……お前はどう見る?」



真正面に山を見据え、土方は##name_1##に問う

すると彼女は眉を潜める



『真正面からは確実に来ねぇな。賢い選択じゃねぇ…恐らく山越えして来るんじゃないか?』

「流石だな…新政府軍がこの蝦夷地に攻め込むなら、乙部や江差の辺りから上陸するだろうな」



真正面から戦場に向かう者は無謀者、或いは自決覚悟で戦いに挑む者だろう

無闇矢鱈に戦力を浪費を避けるのが賢い選択、ならば真正面からはまず無い

そして真正面以外の戦法は、回り込んでの奇襲となる


以上の理由から。新政府軍が海を越えて迫っているとしても、港を避ける筈



『てぇことは…函館港には遠洋から砲撃を加え、俺達ゃ挟み撃ちって訳か』

「そう言うこった、海からの攻撃は止められねぇ。船での戦にやれば、俺達が押し負ける」



港は五稜郭の付近に位置する

海からの砲撃と、山からの奇襲

そして新政府軍の勢力は、共和国側を遥かに上回る


辿り着く応えは、不利な立場にいるという事



『五稜郭が、最後の戦場…か』



間違い無く、新政府軍は攻めて来る

戦の独特な雰囲気を、##name_1##はその身体全体で感じ取っていた



「俺が武士として、刀を抜くのもここで終わりだ」

『(刀が、無くなる時代…か。検討もつかねぇな…)』



土方は淡々と呟く

それに##name_1##は空を仰ぎながら、内心で先の不安を感じていた


二人は身体が冷えない内に、土方の部屋に戻ってきた…その直後

不意に土方の表情が強張った

そして瞬く間に、彼の身体は羅刹の血を発現する




『トシっ!!』

「……蝦夷地に来てからは、随分調子が良かったんだが」



血を求める発作に苦しみつつ、土方は無理矢理笑む



「俺の身体も、そろそろガタが来た様だな。……せめて春まで持ってくれると、ありがたいんだが」

『寝惚けた事をほざいてんじゃねえっ!!』



まるで死を求める様な土方の言葉に、##name_1##は声を荒げた

苦しむ土方の胸元を掴み合げ、鋭い視線で睨み付ける



『てめぇ、本気でいい加減にしやがれ!!春までだと?てめぇはまだ生きるんだ!!他の連中の分までな!!』



叫びながら彼女は、空いた片手で自身の洋服の襟元を乱暴に肌蹴た

その勢いが良すぎてか、釦が一つ弾ける



『飲め』



じわりと、##name_1##の目頭が緩む

土方は息を呑む



『……逃がす訳、ねぇだろ』

「……怖ぇ女だよ、お前は」



まるで今にも泣きそうな、懇願する様な声音

そんな彼女に土方は小さく笑うと、優しく引き寄せた


白磁の様な美しい肌に、彼は思わず唾を呑む

艶やかな髪を掬い、首筋に唇を寄せる



「……血の味は、久し振りだな」



小さく響く啜り音と共に、土方は呟く

それに##name_1##は驚きを隠せない



『飲んで、なかったのか?』



だがそれ以上、彼女は問い掛けなかった


問い掛けても土方が、素直に応じるとは思えず

またその理由も、##name_1##は瞬時に理解した



『(ったく、この阿呆が…テメェの身を軽んじてやがったな…)』



【春まで持てば良い】

土方は先程、そう言った

恐らくそう考えて、敢えて血を摂取していなかったのだろう



『丁重に味わえよ。貴重だぜ?現役戦国武将の血なんぞ、な?』



不敵な笑みを浮かべてそうな、そんな##name_1##の声音

土方の肩が一瞬、震う



『他の血なんぞ、不味くて仕方ねぇくれぇにな』


呆れた様な溜め息が、土方から漏れる

だが穏やかな笑みを浮かべ、続けた



「……阿呆。美味いのは惚れた女の血だからだろ…」

『……ばか』


彼の発言に、##name_1##が真っ赤になったのは…言うまでもない



『(――…まさか、な)』



雲行き 完

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何かどんどん甘くなってる気が(汗)

11.10.03.


mae tugi