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「ん?…ええと…」



朝の日差しで、少女は目を覚ます

そして次第に昨夜の出来事を、思い出した



『おはよう、気がついたか?』



背後から聞こえる、低い声色

少女が振り向くと、昨夜出会った青年がそこにいた



「おはようございます…あれ?縄…」



昨夜の内に二人は縛り上げられ、芋虫の様な状態にされていた…のだが

気付くと、縄は全て解かれていた



『縄なら解いたよ』

「えっ?」



彼の言葉に少女は、驚きで目を瞬く


それもそうだ

縛り上げられた状態で、縄を解いたと言っているのだから



『名前、聞いても良いかい?』

「千鶴です、雪村千鶴。あの貴方は…」



千鶴の問い掛けに、青年は手で制す

そして視線を入口に向ける


すると襖がゆっくりと開き、人の良さそうなおじさんがひょっこり顔を出す



「ああ、目が覚めたかい」



彼は井上と名乗った

穏和そうで人望の厚そうな井上は、申し訳ない様に表情を歪める



「すまんなぁ、こんな扱いで…おや、縄はどうしたんだい?」



目を見開く井上に、青年が笑みを浮かべながら答えた



『解きましたよ。逃げられないと、分かっていましたから』



言い切った青年に、千鶴も井上も苦笑を隠せない



「ちょっと来てくれるかい」

『俺達の事ですね』



井上は彼の言葉に頷き、諭す様な口調で続ける



「そう。今朝から幹部連中で、あんたらについて話し合ってるんだが…あんたらが何を見たのか確かめておきたい事になってね」

『分かりました…立てるかい?』



千鶴に、青年が手を差し延べた

その手に捕まり、ふらつきながらも千鶴は立ち上がる



『俺もいる、一人じゃねぇよ?』

「…はい」


***


井上に案内された部屋では、新選組幹部が二人を待っていた

刺す様な視線に、千鶴は身を固くするが…



『(…面倒臭せぇ…)』



青年は寧ろ面倒とか、考えてた



「おはよう、昨日はよく眠れた?」

「あ…」



沖田に声をかけられ、千鶴の固さが和らぐ



「…寝心地は、あんまり良くなかったです」



千鶴は彼の問いに慎重に答え、青年は無視した



「ふぅん…そうなんだ?」



彼の表情は、何かを企んでそうな笑み



「さっき声をかけた時には君、全然起きてくれなかったけど?」



彼の言葉に、千鶴は愕然とする

だが…



『それはないですね』



隣にいた青年が、呆れた表情で否定した



『彼は来てません。俺、起きてましたし』

「からかわれているだけだ。総司はお前達の部屋には行っちゃいない」



似た様な声色で斎藤も、青年に続く

千鶴は無言で沖田を睨むが、彼は視線を青年と斎藤に向けた



「もう少し君の反応が見たかったんだけどなぁ。一君も君も酷いなぁ」

『酷いじゃなくて、事実でしょう…本題に入りましょう、本題に』



溜息混じりで、青年は先を促す



「…おい、そいつの言う通りだ。お前ら無駄口ばっかり叩いてんじゃねぇよ」



土方の呆れ返った声に、沖田は肩を竦めて口を噤む



「でさ、土方さん。そいつらが目撃者?」



一際甲高い声が響く



「どんな奴かと思えばガキじゃん、そいつら」



長髪を高い位置で括ってる、幹部でも一際若い少年

――最年少幹部、藤堂平助



「お前がガキとかいうなよ、平助」



藤堂の向かいにいる、赤い長髪を後ろで束ね、細身で一見優しそうな顔付き

――原田左之助



「だな。世間様から見りゃ、お前もこいつらも似た様なもんだろうよ」

mae tugi



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