刃が、##name_1##の首に触れる
八咫烏(やたがらす)の切れ味は、新選組目利きである斎藤のお墨付き
刃が触れただけで、皮が切れて鮮血が流れる
「##name_3##っ!!」
土方がいくら声を荒げても、彼女は刀を離さず
ゆっくりと##name_1##は、彼を見上げる
彼女の瞳を見た土方は、目を見開いて息を呑む
そこにあったのは【闇】
漆黒の闇よりも尚暗く、混沌としていた
今だかつて、##name_1##がその様な瞳をした事はなかった
否。過去を話す時は少しばかり、闇を孕んでいたかもしれない
だがそれは、ほんの僅か
元より彼女は京の頃から、笑顔が耐えない女性(ひと)であった
千鶴とはまた違う笑顔に、新選組の誰もが安心感を覚えたものである
だがそれは##name_1##が前向きな性格だからこそ
何にも諦めず、自身を貫き通す、強い【心】があってこそ
そんな彼女が、闇に捕われかけている
土方は目の前の事実を
闇に捕われかけている##name_1##を
信じられない様な目で、彼は見つめた
『ね、トシ。覚えてる?あの【約束】』
「…あ?」
ゆっくりと、柔らかな声色で彼女は土方に問い掛ける
それはまるで――
『トシが言ってくれたでしょ?【絶対に一人にしない、一緒にいてくれる】って…』
「っ!」
京に居た頃、幹部達に##name_1##の素性を暴露した後
弱っている彼女に、土方が言った台詞である
『…凄い、嬉しかった…私の全部を受け入れて、くれて…それでも尚、そう言ってくれたのが…』
「………」
穏やかに笑む##name_1##に、彼は唇を噛み締めた
彼女には心の奥底に、トラウマを抱えている
自身の出生と、幼き頃に受けた虐待
それが今でも尾を引き、##name_1##は【拒絶】を拒み嫌う
『トシが居て、くれたから…私は私で居られた。トシが存在してくれたからこそ、私は前に進む事が出来た…』
##name_1##は、この世界の住人ではない
そう、違う世界の住人
例えどんなに、剣の腕に長けても
例えどんなに、知略に秀でても
例えどんなに、【心】が強くとも
――戸惑わない訳がない――
――不安にならない訳がない――
――哀しまない訳がない――
彼女にとって、土方は自身を支えてくれていた存在だった
『ねぇ…トシ…私、どうしたら良いの?』
闇がうごめく瞳を土方に向け、##name_1##は呟く様に問い掛ける
それに彼は、言葉すら無くす
『トシが居てくれて、私は存在出来た。
トシが側に居てくれたから、私は【この世界】で生きてこれた。
トシが私に、生きる活路を与えてくれたから、今までの私が居る。
トシが…貴方が居てくれたから、私は…』
次第に彼女の瞳が潤み出す
ポタリポタリと、透明で美しい雫が流れ落ちる
『貴方が、私を、必要としてくれた…こんな私を、認めてくれた…
けれど貴方は私が必要ないと、言った…』
そこで言葉を切った##name_1##は、満面の笑みを浮かべた
『私が必要ないのなら、生きていても…仕方ないよね?死んでも良いよね?』
「っ!」
カチリと彼女は刀に力を籠めると、鮮血の強い匂いが漂う
##name_1##は土方を支えとしていた
その土方から【拒絶】され、今の彼女は生きる希望を見失っている
痛々しい程の満面の笑みに、彼は漸く全てを把握した
「(俺が…傷付けた…##name_3##を…こんなになるまで、傷付けたっ!!)」
守ろうとしていた女性(ひと)を、逆に傷付けてしまった事実に
土方は罪悪感で押し潰されそうだった
「(そうだよ…コイツは…誰よりも、他の誰よりも…傷付き易いんだよっ!何で俺はっ!!)」
『トシ』
心中で自身に毒ついていた土方を、##name_1##は優しく声を掛ける
―――そして
『さよなら』
笑みを讃えながら、彼女は首筋に宛がっていた刀に
強く力を込めた
mae tugi
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