百二

時は流れ、年の瀬も押し迫る頃

夜も更けた五稜郭内には、賑やかな声が響き渡る


今夜は多くの人々が集まり、新政府樹立祝杯を上げていたのだ

しかしその祝杯に参加しない者が居る



―――…土方だ



彼は祝杯に参加せずに一人、部屋に閉じ篭もっている

何かを避ける様に


カツンカツンと。廊下に靴音が響き渡る

靴音は土方の自室前で止まり


コンコンと、控えめに扉を叩く


暫くの静寂の後――



「……俺は絶対に出席しないからな。今は浮かれてる様な場合じゃねえんだ」



突き放す様な声が返ってきた

扉の前に居た人物は軽く嘆息を漏らすと、扉のドアノブに手を掛ける



『―――入るぞ』



室内に居た彼は不機嫌そうに、扉を振り返り

彼女の姿を見て、眉を潜めた



『…久方振りだな、トシ』



土方の元を訪れたのは、紛れも無い##name_1##


そして

彼女が蝦夷に来てから、初めて二人がまともに対面する時でもあった



『大鳥や榎本さんに聞いてんだろ?蝦夷共和国【医療奉行】に配属になった、以後宜しく頼むぞ』



淡々と##name_1##は、事務的言葉を紡ぐ

土方は眉を潜めたまま、彼女を凝視するだけ


そして表情を顰める



「…何故、蝦夷に来た…」



苦い顔をしながら彼は、絞り出す様に呟く

だが##name_1##は唇を結び、無言を通す



「俺は確かお前に命令したよな?…俺の命令が聞こえてなかった、とは言わせねぇ」



そう。土方は仙台で確かに、彼女へ局長命令を下した


【##name_1## ##name_2##の蝦夷行きを禁止。また新選組としての行動も禁ずる】と


だが今、土方の眼前に##name_1##が居る



『……』

「黙ってねえで、何とか言やがれ」



少し目を細め、彼女を睨む

だが##name_1##は黙したまま


土方は益々、不機嫌な表情を浮かべた



「黙ってねぇで、何とか言ったらどうだ!何故蝦夷に来たんだ!」



沈黙を続ける##name_1##に、土方は厳しい表情で怒鳴り付ける


ゆっくりと

彼の声に反応するかの様に、彼女が口を開く



『……何故?』

「あ?」

『何故、私が蝦夷に来てはいけなかったの?』

「っ!」



その問いに、土方は言葉に詰まる



彼が##name_1##を突き放し、蝦夷から遠ざけたのは彼女を護るが為

だが土方はそれを口にするのを、戸惑ってしまう



『…私が、居たら…足手まとい?』

「あ、あぁ!そうだよ!」



流石に本人の前で、本音を言いづらかったのか

土方は僅かに視線を逸らし、理由を誤魔化す


だが彼は見逃してしまう



##name_1##の瞳が、次第に【闇】に侵食されて行くのを



『……足手、まとい……』

「そうだ!てめぇが居なくても俺達はやってける!大体女が居る事事態、足手まといなんだよ!」

『………』



強い拒絶

だがそれは、土方自身の本音ではない


彼女を戦場から早く遠ざけたい一心で、彼は思ってもない事を口にする



その言葉が、##name_1##を更に追い込む事になる要素とは…土方本人も思っていなかっただろう

彼の言葉を俯きながら、彼女は聴き入る

土方が##name_1##の様子がおかしい事に気付いたのは、それから直ぐだった



俯き、言葉を発せず、身動きすらしない

そんな彼女に、土方は訝しげに見やる



「……##name_3##?」



一歩、また一歩

土方に呼ばれた後から、何故か##name_1##は後退し始めた



そして彼との距離が開いた所で、彼女はとんでもない行動に出る


これには土方も、目を見開いた



「なっ!?##name_3##!おまっ、何してやがる!?」

『…………』



慌てふためく彼を余所に、##name_1##は沈黙したまま

室内にカチャリと、鈍い金属音が響く



「止めろ!##name_3##!刀を離せっ!!」



彼女は自身の得物を、首筋に宛てていたのだ



mae tugi