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不意に聞こえた声

だが発せられた言葉と裏腹に、声音は可笑しげに弾んでいた



「僕一人で、始末するつもりだったのに。斎藤君もだけど、君も酷いなぁ」



飄々と、恨み言を言う優男風の彼

その手元には、鈍く光る刀が握られていた



「俺は勤めを果たすべく、動いたまでだ…そいつはどうかは知らんが」



斎藤…と呼ばれた男は溜息をつきながらも、視線は二人に向けられている

彼等の突き刺す様な視線は殺気をも含み、青年の横にいる子は、つい息を呑む



「…で、君は何者?」

『人間』



優男風の青年の問い掛けに、青年は即答で返す

二人の殺気に青年は、どこ行く風


その返答を聞いた優男風の青年の表情が、微妙に引き攣った



「君、おちょくってるの?ねぇ、斎藤君」

「言葉遊びをしてる時ではない」



そんな優男風の男を、斎藤は窘める


だが青年は二人の会話は、耳に届いてない

寧ろ、警戒を強めている



『…もう一人…』

「えっ?」



ゆっくりと青年は、背後に視線を投げた

その視線は鋭く、冷たい



「…運のない奴だ」



座り込む子の眼前に、突き付けられた刀の切っ先


冷ややかな声色

星明かりに照らし出された、端整な顔



「いいか、逃げるなよ。背を向ければ斬る」

『(…俺、あんたに背向けてんだけどな…)』



静かな宣告に、青年は内心毒つく

長髪の男は眉間に皺を寄せ、深い溜息と共に刀を引いた



「えっ?」



あっさり刀を引いた彼に驚いたのは、その子だけではない

優男風の青年も、目を軽く瞬かせていた



「あれ?いいんですか、土方さん。この子達、見ちゃったんですよ?」

「一々余計な事を喋るんじゃねぇよ。下手に話しちまったら、始末せざるを得なくなるだろうが」

『(…内密に事を済ましたい件、か。てかこの子、女子だ)』



彼等の会話の内容で、青年は事の危険さを察知する

それと同時に、傍にいた子の性別も気付く



「この子達を生かしても、厄介事にしかならないと思いますけどね。特に君は」



ちらりと座り込む子を見た彼は、眼帯の青年を軽く睨む

だが青年は何のその



「とにかくだ…こいつらの処分は、帰ってから決める」

「俺は副長の判断に賛成です…彼は危険過ぎるが」



周囲を警戒しつつ、彼も青年を軽く睨む



「…頭の痛ぇ話だ。まさかここ迄、酷いとはな。つーか、お前等。少しは伏せろよ…」

「ええー?伏せるも何も。隊服着てる時点で、バレバレだと思いますけど」



浅黄の羽織りを纏った者達、それ即ち新選組

この地に住まう者なら、知らぬ者はいないだろう


少女は流石に気付いた様だが、彼等の存在を青年の知るよしもない



『…大丈夫か?』



気遣う様に青年が、少女に声をかける

少女は戸惑いながらも、口を開く



「え、あ、はい…」



少女の雰囲気を感じ取ったのか、青年は苦笑地味た表情を浮かべた



『…あんまり大丈夫じゃ、ねぇな…』

「ねぇ、所でさ。助けてあげたのに、御礼の一つもないの?」

「『…え?/は?』



唐突に突き付けられた話題に、二人は驚く


その内容に呆れて、青年は絶句

だが暫くすると少女は立ち上がり、身嗜みを整えて頭を下げた



「あの、ありがとうございます。遅くなって、すみません」



少女が恐る恐る、頭を上げると――


土方は渋い表情を浮かべ、斎藤は目を見開いて驚き

青年は額に手を当て、溜息を漏らしている



「わ、私も場違いかなとは思いましたよっ!?」

『うん、それ以上言わんでいい…言い出しっぺ、大爆笑してっから』



青年が表情を引き攣らせながら、彼に視線を投げた

すると当人は腹を抱えて、大爆笑中



「ごめんごめん、僕が言ったんだもんね。どういたしまして、僕は沖田総司といいます。礼儀正しい子は、嫌いじゃないよ」

「…ご丁寧にどうも」

『いやいや、ここで自己紹介しなくても良いだろ』



半ば呆れつつも、青年は突っ込む

それに土方も、溜息を漏らしながら頷く



「確かにな…」

「副長。まずは移動を」



斎藤は冷静に、土方へ移動を促す


青年は刀の血を払うと、手際良く鞘に納めた

そのまま無言で、土方の後方を歩く


背後から聞こえる斎藤の言葉に、青年は耳を傾けつつ、思考に浸る



『(…【空気】がまるっきり違う。安易に動けねぇな…)』



おいでませ 完



10.03.27.執筆
11.11.10.編集・移転

mae tugi



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