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手当ての済んだ手を振り回して笑う永倉に、彼は苦笑を漏らす



『…ったく…今から二階に行く。局長と平助を頼んだぜ、新八』

「おうよ!くたばるんじゃねぇぞ!」



階段を昇っていた足を止め、青葉は新八に振り返る



『誰がくたばるかっての!』



***



急な階段を駆け上がったその先には、沖田と対峙するは浪士一人


闇の中、白刃が煌めく


月光が窓から差し込み、相手を照らし出した

白い着物に赤の帯、黒の羽織を羽織る…金色の髪を持つ男


その男にあの沖田が、苦戦を強いられていた

そう。新撰組の天才と称されたあの、沖田がだ



『(…剣の腕は沖田が上、だが純粋な力勝負では奴に利がある、か)』



瞬時に青葉は、二人の力量を読み取る

実際に浪士の斬撃を、沖田は受けきれずによろけてしまっている


力量を判断した青葉の行動は素早く

――直ぐ様、浪士に斬りかかった



「むっ!」

『そこまで』



凛とした、青葉の声が響く

斬撃を素早く交わした男は、彼との間合いを取る



「青葉…?」

『交代…俺が相手だ』



刀の切っ先を浪士に向けて、青葉は目を細めた

沖田は驚いていたが、浪士はただ嘲笑うだけ



「貴様程度など…」

『負けないと?』



台詞が響くと共に、彼の姿が消える

青葉は瞬く間に、浪士の間合いに詰め寄って斬り込んでいた



「ぐっ!?」



鋭い斬撃を、浪士は何とか受け止める

そして浪士の表情から、余裕の色が消えた



『悪いが時(とき)が惜しいんでね、早々にケリをつけさせて貰う』



そう言いながら青葉は、浪士と刀を交えていく

闇夜の中、白刃が激しく舞う



「き、貴様っ!?」



気付けば、浪士が追い込まれる形になっていた

青葉は何の躊躇も無く、鋭い白刃を叩き込む



『用がないなら、お引き取り願おう…何れ、捕縛させて頂く』



彼はそう言うと、浪士と一旦間合いを取る

そして刀を真横に構えた


刹那

青葉は浪士に、そのまま真横に斬りつけた



「ぐっ!」



浪士は彼の斬撃を、受け止めたものの

その斬撃の重さの反動に耐え切れず、窓の方へ吹き飛んだ



「…覚えていろっ!!」

『はいはい』



浪士の吐き捨てた台詞を流した青葉は、再び真横に斬りつける

その反動で、浪士は窓から落ちていった



「げほっ」



彼の後方で、沖田の吐血した音が響く



『まだ戦える…とか、ほざいたら殴りますからね?組長』



直ぐ様沖田の元に駆け寄った青葉は、溜め息混じりで呟く

勿論沖田の傷を、手際良く診ながらだ



「それは嫌だなぁ…それにしても、君強いね?」

『…たまたま、ですよ』

「…嘘、だぁ…」



そう言い残すと、沖田は意識を失ってしまう

すると彼は重く溜め息を漏らす



『…沖田、重そう…』



青葉が沖田と共に一階に下りると

斎藤・原田隊が既に到着し、全てを鎮圧した後だった


それを確認した青葉は、怪我人の処置を施していく

全て終わった彼は、一人屯所に戻った


青葉は隊士としての扱いだが、まだ正式な隊士として配属になってないからだ



*****



――長い夜が明けた――




浪士七名討ち取り、浪士四名に手傷を負わせた今回の大捕物

後に池田屋事変と呼ばれる様になる



しかし新選組の痛手も、また深い


沖田は頭部に一撃を食らい、気絶

平助は額の傷が深い、新八も手を負傷

平隊士二名が命に関わる程の手傷を負い、重傷隊士一名



だが幸運な事に、死者が零

これは青葉の功績と言っても良い


特に重傷隊士は応急処置が遅れていたら、戦死していた…と、医者から言われた位だ

平隊士二名も処置が早かった為、無事に生き残る事が出来た


この一件で、新選組は広く名を馳せる



と同時に、長州浪士にある噂が流れた




新選組に独眼の
阿修羅現る
―と





後日談だが


池田屋事変とその後の働きを認められた青葉は、新選組に正式入隊した


と同時に新選組に医療隊が設けられ、その隊長に青葉が抜擢される


大捕物 後編 完



***
池田屋終了!夢主のターンは戦闘シーンが多くて大変でした…楽しかったけど…

10...執筆
11.10.30.

mae tugi