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『ん…』



青年が意識を浮上させると、眼前には見事に咲き誇る満開の桜が



『…んなっ!?』



唐突な事に、青年は目を丸くして固まる


何せ彼は先程、刀で腹部を刺された筈なのだ

なのにも関わらず、身体に姿形が全く無い。これで困惑しない訳がないだろう

加えて周囲の町並みや景色は全て、青年には未知のものであり



『……何処だ、ここ』



結果、路頭に迷う

ふと青年は、ある事に気付く



―身を刺す様な寒さに―




『…今、冬なのか?』



背後には、満開の桜。だが彼が感じる寒さは、冬の冷気

この矛盾に思案していると、突風が急に吹き抜けた
それは目も開けられない程の強風で



『っ!!』



青年は咄嗟に目を閉じ、風が止むのを待つしか出来なかった

風が次第に収まり、目を開いた青年は驚愕する


それは無理もない
先程まで満開だった桜が、一瞬で姿を消したのだから



『…意味、分かんねぇ…』



夜帳も落ち、月光が辺りを照らす

青年は思考を止め、仕方なく宿を捜す事にした


町並みを歩いても彼には、地理がさっぱり分からず

深い溜息をついて、青年は困り果てた


――そんな時だ



ぎゃあああああっっ!?



闇夜に絶叫が響き渡ったのは
同時に風に乗って、血臭が漂う



『…ちっ!』



青年は舌打ちすると、身を翻す

向かうは、絶叫と血臭がする方向



「ひゃはははっ!!」



断末魔に、甲高い哄笑が重なる

次第に血臭が強く、濃くなっていく



『…何、だ…これ、は…』



現場に辿り着いた青年は、その光景に絶句した


彼が見たものは…

浅葱色の羽織を纏う者達が、男達を容赦無く斬き付けている

そんな…異様な光景だった


彼等の瞳には不気味な光が宿っており、理性など欠片も感じられない



『……狂ってやがる…』



眉間に皺を寄せ、青年は表情を露骨に歪ませた


彼等はどうやら、青年に気付いておらず

未だ同じ事を繰り返していた



『(戦場[いくさば]で狂うヤツを度々見たが…こいつらは"何か"が違う)』



息を殺しながら、彼等の行為を眺める青年は淡々と思考に浸る

そんな時。不意に付近で、物音が起つ



『(っ!誰かいるのかっ!?)』



視線を物音がした方に向けると、十五・六歳程のまだ元服も済ませていない子供の姿があった


その物音に狂ってた者達も気付き、その者を見やる

まるで【獲物】を見付け、瞳を鈍く輝かせる様は

――【獣】そのもの



「っ!」



その子は恐怖に震え、動く事が出来ないでいる

青年は浅く舌打ちすると、瞬時に駆け出した


狂刃が降り注ぐ、刹那――


鈍い金属音と共に、斬り裂く音が響く

鮮血が音を立てて、地面に広がる



『…無事か?』

「…えっ?」



声の主が見上げると、狂刃から青年が防いでいた

その手には、赤く染まった刀が握られている



『怪我はないか、と聞いている』

「は、はいっ!」



青年は瞳を、明後日に向けた


その先には…
先程の男達が、血溜まりの中に倒れていた



「あーあ、残念だなぁ…」



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【哄笑 こうしょう】 大声で笑う事


mae tugi



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